やさしい甘さと魅惑の造形美「無花果」。加熱調理で、新しい味覚に出会う

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今年もイチジクの季節がやってきました。繊細な味わいと個性的な食感、神秘的ともいえる造形は、イチジクを特別な存在にしています。
今回は、「無花果」という名の由来と品種、イチジクを「調理する」シンプルレシピをご紹介します。


ぷちぷちした食感の秘密。花が咲かないのに実が成るから「無花果」?

イチジクは、クワ科イチジク属の落葉低木。原産地はアラビア半島南部で、旧約聖書にも逸話が登場するように、古くから親しまれ栽培されてきた果物です。日本に渡来したのは江戸時代。その時のイチジクの品種が、現在も出回っている「蓬莱柿(ほうらいし)」といわれています。
漢字で「無花果」と書くように、私たちは外側から花を見ることはできません。イチジクの花は「隠頭花序(いんとうかじょ)」と呼ばれ、実のなかに小さな白い粒のような花を付けます。外側を覆う実に見える部分は花嚢(かのう)といい、花軸の茎が変化したもの。イチジクの「実」は、植物学上では「花」にあたる部分だったのですね。あのぷちぷちした食感は、無数の小さな花が織りなすハーモニーなのです。


おもな3つの品種の特徴は?海外の白イチジクも人気!

イチジクの品種は、世界中で200種類を超えるといわれています。日本国内で流通しているのは、大部分が「桝井ドーフィン(ますいドーフィン)」という品種。その他には、日本イチジクとも呼ばれる「蓬莱柿」、福岡県で品種登録された「とよみつひめ」が多く出回っています。近年、海外の白イチジク品種も人気を集めており、濃厚な甘みと粘りのある食感が特徴の「バナーネ」や、黄緑色の皮でさわやかな甘さの「ザ・キング」などの栽培も増えています。
◆「桝井ドーフィン」
広島県出身の実業家・桝井光次郎氏が1908年にアメリカから持ち帰った品種。現在、日本でいちばん手に入りやすいイチジクです。果実が大きめで果皮が傷みにくいのが特徴。さっぱりとした甘さで、お菓子や料理に幅広く利用されています。果皮は赤褐色、果肉は乳白色〜濃いピンク色。主な産地は愛知県、和歌山県、兵庫県、大阪府など。
◆「蓬莱柿」
最も歴史が古く、ペルシャから中国を経て江戸時代初期に渡来したとされています。別名「早生(わせ)日本種」。やや小ぶりで果皮は浅い赤紫色、果肉は淡いピンク色。甘みが強い品種で、改めて価値が見直されています。主な産地は広島県、福岡県、中国地方から北九州で、西日本を中心に流通しています。
◆「とよみつひめ」
福岡県のブランドイチジク。2004年に登録出願、2006年に品種登録されました。平均糖度は17度以上。皮ごと食べられる品種といわれています。果皮は赤紫色、果肉は乳白色〜紅色。蜜のような強い甘みとねっとりとした食感が特徴です。


イチジクを「煮る」「焼く」「揚げる」。シンプルレシピ3選

イチジクには、ビタミンE、カリウム、カルシウムが含まれ、水溶性食物繊維であるペクチンが多く含まれています。果汁にはクエン酸、果実から出る白い乳液には消化を助けるといわれるたんぱく質分解酵素も。夏場の疲れが出るこの時期に、ぜひ取り入れたい食材です。
イチジクのやさしい甘さと柔らかい果肉は、加熱すると旨みが増してとろけるような美味しさに。果物として生で食べるだけでなく、ひと手間加えて新しい味覚を楽しんでみませんか。

◆イチジクを「煮る」
ペクチンを多く含むイチジクは、ジャムに適した果物。初心者でも簡単にとろみのある美味しいジャムがつくれます。ジャムにオイルや調味料を加えてサラダのドレッシングやメイン料理のソースにも!
【イチジクまるごとジャム】
・イチジク:3個(皮付きで約200g)
・レモン果汁:大さじ1/2
・グラニュー糖:60g(イチジクの重量の30%)
※ 約200ml分
イチジクはよく洗ってヘタを取り除き、水気を切ります。ほうろうやステンレスの鍋に材料をすべて入れて、ヘラなどでつぶして水分を出し中火で加熱します。沸騰したら弱火にして、焦げつかないように混ぜながらとろりとするまで15分ほど煮ます。冷めると固まるので、ややゆるめの状態で火を止めるのがポイント。熱いうちに煮沸消毒した瓶に入れて冷蔵庫で保管します。10日間ほどで食べ切るのがおすすめです。

◆イチジクを「焼く」
欧米では日常的な食べ方で、焼くとより甘みが引き立ちます。皮ごと軽く焼いたイチジクを縦半分に切って、水切りしたヨーグルトやマスカルポーネチーズなどをのせるだけで立派な前菜になります。パンにのせて焼けば、ちょっと豪華な朝食やフィンガーフードに。
【イチジクチーズトースト】
・イチジク:1個
・好みのパン(食パン、カンパーニュ、バゲットなど):1枚
・グリュイエールチーズ:適量
・はちみつ:適量
・くるみ:適量
※1人分
パンにはちみつを塗り、輪切りにしたイチジクの上にチーズを散らし、くるみをトッピング。トースターなどでチーズが溶けるまで焼きます。ブルーチーズやゴーダチーズなど、好みのチーズを使ったり、生ハムをプラスするなど、アレンジは自在!

◆イチジクを「揚げる」
衣を付けて揚げると、イチジクのジューシーな食感が楽しめるひと品に。デュラムセモリナ粉を使うとカリッとした衣に仕上がります。ワインやビールのお供にぴったりです。
【イチジクのフリット】
・イチジク:3〜4個
・卵:1個
・デュラムセモリナ粉:適量
・揚げ油:適量
・塩、黒胡椒、レモン:適量
※ 作りやすい分量
イチジクは熟し過ぎていないものがおすすめです。皮付きのまま縦4等分にカットし、割りほぐした卵液にくぐらせ、デュラムセモリナ粉をまぶしつけます。揚げ油を180〜190℃に熱し、きつね色になるまで揚げます。塩、黒胡椒をふり、レモンを添えて。
※デュラムセモリナ粉がない場合は、薄力粉で代用できます

秋を感じさせてくれる魅惑の果実、イチジク。個性がありながら、どんな料理にもなじむ懐の深さが魅力ですね。この季節限定の、どの果実とも似ていない食感と繊細な風味を堪能しましょう。

・参考文献
吉田企世子『旬の野菜の栄養事典』エクスナレッジ
福田里香『いちじく好きのためのレシピ』文化出版局
・参考サイト
旬の食材百科

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