目から止めどなく膿が出てくる…突然出会った瀕死の子猫 登山に向かう途中で迫られた“命の選択”

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

病気の子猫を見捨てるわけにはいかない。でも、家にはすでに猫がいる…。突然、命の選択を迫られた若い男性がいます。大阪市のSさんです。登山をしようと大阪府郊外に足を運んだところ、農道の脇で目が膿でいっぱいの子猫と出会ってしまったのです。

拭っても拭っても、止めどなく膿が出てきます。このままなら死を待つ他ないのは、誰の目にも明らかでした。周囲に親猫がいる気配はありません。近くの農家の人に飼い主の有無を尋ねると、「いない」という返答。

Sさんは迷います。家で待つ猫のぽんずちゃんは可愛い、しかし目の前の子猫も見捨てるわけにはいかない。そこで同居する彼女に電話で相談しました。すると、

「そんな状態の子を放っておけない」

この彼女の返事に、Sさんは子猫を連れて帰ることを決断します。子猫はSさんのリュックに入れられ約1時間半、電車に揺られました。行きの1時間半は短く感じられたのに、病気の子猫が入るリュックを背負った1時間半の長いこと。

やっとのことで自宅近くまで戻ると、行きつけの動物病院へ直行です。獣医師の診断は、猫風邪由来の結膜炎。もう少し遅かったら命はなかったのだろうと。シロップ薬や目薬、点鼻薬などたくさんの薬を出してもらい、その日の診察は終わりました。

帰宅すると、すぐケージと段ボールを用意しました。しばらく子猫はここで過ごすことになります。子猫は「おこげ」と名づけられました。他にも候補があったのですが、「おこげ」と呼んだ時の反応が一番良かったんですって。

ぽんずちゃんとの対面は、感染症対策のため2週間お預けです。さあ、ぽんずちゃんの胸中は乱れます。気配はするのに、ナニモノか分からない者が家の中にいるのが怖い。少しでも匂いがすると、「フー!」「シャー!」。

それに、Sさんもなんだかヨソヨソしい。Sさんは何もぽんずちゃんを邪見にしたいわけではありません。これも感染症対策。それでも、ぽんずちゃんは寂しい。ぽんずちゃんの辛い2週間が始まりました。ストレスで食欲不振になったり、吐いたりもしました。

一方、おこげちゃんも辛い。生後1カ月半ぐらいなのに、体重はたったの300グラムでガリガリです。匂いが全く分からず、口で匂いを嗅いでいる状態。最初の3日ほどは、目薬を差しても差しても膿が止まりません。

Sさんは何日も半徹夜で看病しました。1週間ほど経つとようやく膿は止まり、目が開くように。とても可愛い顔だと分かりました。また1週間経つと、体重は480グラムに増え、ふっくら子猫らしい体つきに。

2週間経ち、ようやくぽんずちゃんとの対面も果たします。あれだけ「フー!」「シャー!」と言っていたぽんずちゃんは、子猫のおこげちゃんにおっかなびっくり。遠くから眺めることを繰り返します。それでも、1カ月も経たないうちに、仲良く毛づくろいし合う仲になりました。

おこげちゃんは、薬が効いたのでしょう。匂いが分かるようになり、ご飯がとっても美味しい!パクパクたくさん食べて、体重は480グラムから600グラムへ。今ではなんと1300グラムになったんです。

成長するにつれ、目はどんどん綺麗になってきます。目の濁りは少し残っていますが、それがかえって夜空のようで神秘的な色合いに見えるんですよ。

今のおこげちゃんを見て、農道の脇でうずくまっていた姿は想像がつきません。本当に元気になりました。そんなおこげちゃんへのSさんの願いはただ一つだけ。

「このまますくすく元気に育ってほしい」

その願いを一身に受け、今日もおこげちゃんはぽんずちゃんと一緒に家中を駆け回っています。

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