岐阜県の某河川で撮影された写真がTwitter上で話題になっています。
写真に写っているのは、バーベキューに来たであろう若者たちが川で洗剤を使って食器を洗っている姿。洗剤や食器にこびりついた汚れを川に流すことは川の水を汚染し、環境破壊や生態系への悪影響を招く危険な行為であることは間違いありません。
ツイートのリプ欄にも、
「自然を何と思っているのだろうか」
「命の大切さと環境の配慮、今の現状を知るべきだと思う」
「近所の川で魚が大量死したときに、ペンキを橋の上から流していたという話があったことがありました」
「BBQ大好きな謎の県民性も拍車をかけてますね…」
「岐阜県民ですが何度かこういう場面に遭遇したことあります!」
といった、怒りや嘆きのコメントが多数寄せられています。
しかし、写真を投稿された岐阜大学地域科学部教授の向井貴彦さん(@takahiko_mukai) は、「この人たちだけが特別に悪いというわけではない」といいます。
「川で洗剤まで使う人は少ないですが、鉄板などを洗ったり、油を川に流したりする人はよくいます。洗剤に比べればマシとはいえ、多くの人が行うと川の環境に悪影響があると考えられるので、なるべく家に持ち帰ってから洗うなどしてほしいと思います」(向井さん)
人間の身勝手な行為の代償は結局人間に還ってくる…
岐阜県には、木曽川・長良川・揖斐川という三大河川をはじめとした多くの川が流れ、多様な生物が生息しています。
人間が身勝手な事情で河川を汚すと、少なくとも川に生息する魚は死亡してしまい、また河川の富栄養化の原因にもなります。
写真の川には、環境省によって絶滅危惧種に指定されているアジメドジョウやネコギギも住んでおり、そういった希少種の絶滅を促進してしまうという危険性もあります。
しかし、問題はそればかりにはとどまりません。
「下流側で水遊びをする人や、釣りをする人などにとっては、洗剤や汚れた水・死んだ魚が流れてきたら、すごく不快だと思います。せっかくきれいな川で自然を楽しむことができていたのに、そうした環境を汚してしまっては休日に気軽に楽しめる『きれいな自然』がなくなってしまいます」(向井さん)
さらに、それらの問題が蓄積することで、漁業資源の減少や気候変動なども起こると向井さんは言います。
人間の身勝手な行為は、結局のところ巡り巡って私たち人間に還ってきてしまうのです。
私たち一人一人が心がけ、対策していくことが大切
向井さんは岐阜大学・大学院にて、生物多様性と保全生物(生物の絶滅を防ぎ多様性を守る) の研究をされています。
工業化・近代化といった人間の活動によって、環境破壊や生態系の乱れが起こり、生物の多様性が失われていく危険性があることは皆さんご存知でしょう。
ここで向井さんは、このような問題について「公共事業や企業による大規模な行為ではなく,個人の行為によってももたらされるもの」と指摘します。
「ごみ問題・マイクロプラスチック問題・温室効果ガス問題など、以前から社会的に呼びかけられているものはたくさんありますが、どれも言われ慣れてしまって大きな問題であることを皆さん忘れているのではないでしょうか。今回の川での洗い物にしても、昔から『川をきれいにしよう』と呼びかけられてきたにもかかわらず、川を汚すことにためらいがないことに問題があると思います」(向井さん)
大切なのは私たち一人一人が自然の大切さを思い出し、心がけ、対策していくことなのです。そのうえで必要なことについて、向井さんは「知識と想像力」と語ります。
「人間は知らないものに対してとても冷淡で残酷ですが、川にはさまざまなきれいな魚や水生昆虫がいることを知っていれば、そうした生き物を殺すようなことはしなくなるでしょう。『生態系』や『環境問題』について大まかに学ぶのも大切ですが、実際に自然の中で生きている生き物の名前をちょっと知っているだけでも、自然への見え方は変わってきます。
(想像力については)動物園や水族館で見るような生き物が、身の回りの山や川・海にもいるんだと考えることが大切です。そうした生き物がたくさん集まって生態系ができ、きれいな水や空気・食料が得られることを少しでも想像できれば、自分たちが何をすれば良いか考えるきっかけになるのではないでしょうか」(向井さん)
私たち人間も自然の一員であることを皆が理解することが、環境破壊を防ぐ第一歩であることは間違いありません。
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向井貴彦さんのTwitterはこちら→https://twitter.com/takahiko_mukai
岐阜大学・向井貴彦研究室のホームページはこちら→https://www1.gifu-u.ac.jp/~tmukai/