オリンピックでは選手の「口」にも注目  パフォーマンスがアップするカスタムメイドのマウスガード

ドクター備忘録

中塚 美智子 中塚 美智子

夏休みに入り、1年越しのオリンピックも始まりました。大半が無観客試合とのことで、テレビの前で応援したいと思います。

さて、衝突やケガも厭わない熱の入ったプレーを見せるトップアスリート。その口元に注目してみましょう。黄や白、青などカラフルなマウスガードをつけていますね。色を組み合わせてデザインされたものもありますが、種目によって使える色、使えない色があるようです。

オリンピック種目であるボクシングでは、赤のマウスガードは使えないそうです。出血してもわかりづらいからでしょうか。高校野球や大学野球では、白か透明のマウスガードのみ使えます。3年前に「金農旋風」を巻き起こした、金足農業の吉田投手の白のマウスガードが記憶に新しいですね。一方、ゴルフでは医療上の理由であればマウスガードを含めた用具の使用が条件付きで認められているそうですが、パフォーマンス向上のための使用は意を異にするようです。

カスタムメイドのマウスガードは、アスリート1人1人の口の形に合わせて歯科医師が設計し、歯科技工士が製作しています。EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)というプラスチックをシート状にしたもので製作されることが多いのですが、個人の歯並びやかみ合わせなどを考慮して作られているため、使用中にずれたり外れたりせず、口の中を傷つけることもありません。

前歯は衝撃を受けやすいですが、その部分のみシートを重ねて適切な厚みを持たせ、衝撃を和らげて歯や口を守るような構造にすることも可能です。健康保険は適用されないので費用はかかりますが、その分、形や厚み、使用者の年齢や競技レベル、そして何よりもその患者さんが安心して最高のパフォーマンスを出せるように考えて歯科医師、歯科技工士が製作する点が最大の長所だといえるでしょう。私が現在所属する大阪歯科大学医療保健学部には歯科技工士養成課程がありますが、マウスガードを作ってアスリートを支えたいと入学する学生が年々増えてきています。

一方、マウスフォームドタイプのマウスガードは歯科医院に行く必要がないため、安く簡単に手に入れることができます。予め形作られたマウスガードをお湯につけて軟らかくし、自分で口の形態に合わせていきますが、カスタムメイドのように個人の口の形に合わせていないためぴったり合うことはなく、またかみ合わせや衝撃吸収などを考えた作りにはなっていません。安心してプレーできるかどうかという点で、カスタムメイドより大きく劣ると言えるでしょう。厚みもスポーツに適しているとはいえないものがあり、呼吸や発音に影響が及ぶ点も含め安心して競技に臨めるか疑問が残るところです。

コロナ禍での開催、さまざまな意見や考えもありますが、今回は個人的にひたむきに戦うアスリートと彼らを支える歯科関係者に思いを馳せつつ観戦したいと考えています。アスリートのみなさんの熱く、すばらしいパフォーマンスにより、何となく閉ざされたような雰囲気が少しでも明るくなることを願ってやみません。

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