皆さんは「搾取子」と「愛玩子」という言葉を聞いたことがありますか?これは子育てや生活など家庭の機能がうまくいっていない「機能不全家族」で育った人、いわゆる「毒親育ち」には身近な話で、兄弟姉妹の間で親によって与えられるそれぞれの役割のことをいいます。
いじめられる搾取子と可愛がられる愛玩子
搾取子とは、親のストレスのはけ口にされる役割の子どものことで、具体的には、欲しいものを買ってもらえない、暴力・暴言を受ける、家事をさせられる、愛玩子が悪いことをしても搾取子のせいにされるなどが挙げられます。
一方、愛玩子とは可愛がられ、自慢したり見せびらかしたりするための存在、つまりペットのような役割です。搾取子と異なり、欲しいものを買ってもらい、悪いことをしても怒られることはありません。しかし、親にとって自慢になる子どもでいなければならないため、進路は親の希望を押し付けられることもあります。
人格形成への悪影響
親からの差別は、子ども時代のみに影響があるわけではありません。心身ともに成長する時期に差別されて育った子どもは、大人になってからも人間関係に支障が出て苦しむ場合があります。
搾取子は親からの愛情が不足した状態あるいは親から攻撃される状態で育つため、自己肯定感が低くなりがちです。子ども時代に親の顔色をうかがってきたように、大人になってからも他人に気を遣い過ぎて精神的に疲れてしまうことがあり、自分の意見を言いづらくなってしまうのです。
愛玩子は愛情をたくさん受けて育ったかのように思えますが、実際は親の見栄のためにかわいがられていたに過ぎません。いつもいい子であるため、つまり自分が搾取子の役割にならないよう、親の気に入るような自分を演出します。また、甘やかされて育ったり、面倒なことは搾取子に押し付けてきたことにより、自立することが困難であったり、我慢することが苦手だったりします。失敗も素直に認められず、他人のせいにしてしまうこともあります。
搾取子の体験談
神奈川県在住のSさん(30代、会社員)は、搾取子として育ちました。
常に我慢の日々で、いつも愛玩子の妹に馬鹿にされ、何か言い返そうものならすぐに親に告げ口され、暴言と暴力に耐えました。高校までは卒業したものの、妹の学費のために自分は大学を諦めなければなりませんでした。対して、妹は学費が高くて有名な私立大学へ進学。Sさんは就職した後も、その学費を払うために親に半分以上の給料を搾取され続けたのです。
ある日、「搾取子」という言葉を知ったSさんは、一種の洗脳状態から抜け出し、現在は実家を出て一人暮らしをしています。もちろん、Sさんの給料や家事能力を頼りにしていた親は猛反対しましたが、いまでは絶縁状態にあるそうです。
このように、明確な差別をされていてもそれが当たり前になっている搾取子と愛玩子は、それぞれが親にかけられた洗脳から覚めるまでは自分の置かれている状況に違和感を感じるのが難しいのです。
搾取子と愛玩子を生み出さないために
近年、毒親という言葉が一般的に認知されはじめましたが、搾取子と愛玩子についてはまだ知られていない状況です。暴力と違い、目に見えない虐待のため、当事者も「自分は長女だから厳しく育てられ、妹は末っ子だからかわいがられた」と思っている場合があります。そして、自覚があってもなくても、自分の子どもが生まれたとき、無意識に親からされたことを今度は自分がしてしまう可能性が高いのです。
その負の連鎖を断ち切るためには、自己肯定感を上げること、そして子どもの気持ちを考えひとりの人間として対等に接するよう心がけるというのが大事なことです。