コロナに感染しても…職場や学校に、地域に、家庭に安心して帰りたい「シトラスリボン」に込めた思い

平藤 清刀 平藤 清刀

新型コロナウイルスに感染した人やコロナ対応にあたる医療従事者への差別は、帰る場所を奪いかねない卑劣な行為だ。差別や偏見をなくすため、黄緑色の「シトラスカラー」をイメージしたリボンで意識を啓発する運動が、愛媛県から始まって全国に広がっている。コロナに感染しても「ただいま」「おかえり」とお互いに言いあえる「ひとの輪」をつくっていくことが目標だ。

「いわれなき差別」への憤りは誰もがもっているはず

新型コロナウイルスに感染した人、治療を受けて退院した人、コロナ対応に従事する医療関係者、そしてPCR検査を受けただけの人まで、あたかも近づいただけで感染するかのような偏見をもたれ、差別を受ける。正しい情報が知れ渡るにつれて一時よりマシになったとはいえ、今でも少なくないという。

そんな「いわれなき差別」に憤りを覚え、差別意識をなくそうというで立ち上がったのが「シトラスリボンプロジェクト」だ。今では全国各地の学校や企業などで、3つの和が重なる黄緑色のリボンを付けたり、イラストを掲げたりしている。

プロジェクトを推進する有志の集まり「ちょびっと19+」発起人のひとり、松山大学法学部の甲斐朋香准教授にお話を伺った。

   ◇   ◇

――「シトラスリボンプロジェクト」は、いつ、どのような人たちで始まったのですか。

「本格始動したのは2020年4月15日ですが、4月3日に、ひとまず出席可能なメンバーが集まってプロジェクトの骨格を固めました。メンバーは地元の大学関係者のほか、フリーライターやフリーパーソナリティ、企業の経営者などです。

いずれも愛媛県在住で、地域社会に関心があってなんらかの形で市民活動に携わってきたことで共通点していますが、初めから知り合いだったわけではなく、このプロジェクトを通じて知り合ったメンバーも何人かいます」

――実際の行動に移そうとなさった動機は何でしょうか。

「実は自分でもよくわからない部分もあるのですが、あまり後先考えず、ほとんど何の計算もなく『始めてしまった』プロジェクトなんです。

メンバーたちは本業の傍ら、地域社会に対してさまざまな形で働きかけをしてきた人たちです。私の一向に要領を得ない漠然とした呼びかけにもかかわらず、ほとんど二つ返事でプロジェクトに参加し、主体的にさまざまなアイディアを出してくれました」

――シトラスカラーを選んだ理由と、3つの輪がつくられたリボンのかたちに込められた意味を教えてください。

「地域社会の中には、いわゆる『被害者』に心を寄せている方たちもたくさんいるのではないかという感触をもっていました。そうした『安心の目印』を何にするかをメンバーで話し合った結果、リボンにしましょうと。

色は、ブルーリボン(拉致被害者の救出)やパープルリボン(暴力の根絶)など、ほかのリボン運動とかぶらないようにということで黄緑色が決まりました。この色から『ライムグリーン』⇒『シトラス=柑橘』と発想を広げてリボンの名称も決まり、そこから形に意味をもたせたいという議論になって、地域・家庭・職場または学校を表す3つの輪になりました。

この3つの輪は、安心できる居場所であってほしいところ、すなわちプロジェクトを広げていきたい拠点を表しています」

――リボンのつくり方を動画で紹介されていますが、標準の大きさはあるのでしょうか。

「特にこだわりはありませんが、はじめのうちは余裕をもって45センチぐらいの紐がつくりやすいかもしれません」

――製品化されたリボンはありますか。

「私たちで販売・配布などは行っていませんが、愛媛の伝統産業である『伊予水引』でつくったリボンのストラップを、活動の当初からご支援いただいている伊予水引金封協同組合様が扱っておられます。他にも全国各地の就労支援事業所などで、ストラップやバッジが制作・販売されています。お近くでそうしたものがないか、探してごらんになってください」

最終目標はこのプロジェクトをやめること

――リボンやロゴの使い方はどうすればいいのでしょうか。

「身に着ける、掲示する、どなたかに贈るなど、皆さんの創意工夫で楽しみながら、無理なく広めていただければと思います。

ロゴについては、地元のデザイナーさんが細部までこだわって丁寧につくって下さいました。その思いを大切にと思っていますが、特に非営利のものについては少しゆるやかに考えましょうという方針です。リボンやロゴはあくまでもツールです。そこに込められた思いや意味を大切に、思い思いのやり方でやさしさの輪を広げていただけるのが、いちばん嬉しいことです」

――シトラスリボンプロジェクトは、どのような手段で広報されていますか。

「ここまで活動が拡がったのは、マスメディアとSNSの影響が大きかったといえます。なかでも全国放送のテレビの影響は大きかったように思います。

実は私たちの活動のおよそ90%が、お問い合せへのお返事とメディア対応です。2020年の4月半ばから活動を始めて9月末までの時点で、愛媛県の地元紙での関連記事は約30件、県外や全国紙、専門紙でも10件以上となっていました。個人・企業・団体などを合わせたら、47都道府県すべてから何らかのアクションがありました」 

――国や自治体からの反応はありましたか。

「国レベルでは法務省がホームページやSNSで紹介してくださっています。市町村レベルでしたら、教育委員会、区役所、外郭団体も合わせて、少なくとも60ほどの自治体が何らかの形で正式に賛同を表明してくださっています。関西では京都市、大阪市、奈良県五條市などたくさんの自治体が、ホームページや広報紙などへ掲載してくださっています」

――今後の活動についてお聞かせください。

「いくつかの学校で講座をしたり、講演やシンポジウムなどに呼ばれたりする予定があります。最近は時々、オンラインやリアルでの講座や講演依頼のご相談もお受けすることがあります。日ごろのお問合せへの対応とあわせて、それらをひとつひとつこなしていくことですね。また、思いもかけないレベルでプロジェクトが拡がっていっているので、きちんと記録を残しておく必要も感じています。

最終的には、このプロジェクトが必要なくなることが理想です。とはいえ国レベルで『面』の単位でそうした状況が生まれるのはとても難しいと思いますが、市町村単位よりももっともっと小さい『点』のレベルでなら、そうした目標が達成されることがあるのではないかという希望を抱いています。そうした微細な『点』が少しずつ生まれて広がっていけばいいなぁ……というのが、直近の『願望』に近い『目標』でしょうかね」

――趣旨に賛同した人や団体がプロジェクトに参加したい場合、どこへ連絡すればいいですか。

「ホームページのお問合せフォームをご利用ください。トップページの下に『よくある質問』コーナーがありますので、事前にご一読いただけましたら助かります」

   ◇   ◇

▽シトラスリボンプロジェクト
https://citrus-ribbon.com/

▽リボンの結び方(動画)
https://www.youtube.com/watch?v=nE9AlwWJZ2Q&t=9s

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