「命の期限は明日まで」虐待され保健所に持ち込まれた子猫 殺処分寸前で救われ、今ではシロクマそっくりに

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

殺処分は仕方がないこと。一昔前まではそう思われてきました。しかし、今は殺処分せず地域猫にしたり譲渡したりが主流になってきています。大阪府に住む3歳のユキちゃんも、あわや殺処分というところで助けられた1匹です。

彼女が山口県の某保健所に持ち込まれたのは2018(平成30)年。虐待を受けていた可能性が高く、小さな体の下半身は赤く腫れあがっていました。しかも、尻尾が半分ありません。鋭利な刃物で切り取られた跡があります。保健所に持ち込まれた時点で、ユキちゃんはボロボロの体でした。

しかし、ボロボロだから殺処分されて良いわけがありません。ユキちゃんを知った地元のボランティア団体が募集をかけ始めました。

残り時間はあとわずか。これで引き取ってくれる人がいなければ、ユキちゃんはこの世で楽しいことなどないまま、時間を終えてしまいます。どうか誰か…。

切なる願いを込め、ボランティア団体はSNSにも投稿をします。それを目にしたのが、今のユキちゃんの家族、Nさんでした。Twitterのフィードに度々登場する山口県の殺処分問題に胸を痛めていたところ、ユキちゃんと一緒に保健所に持ち込まれたお兄ちゃんのクリくんの画像が流れてきました。そして、命の期限があると知ります。

「誰か引き取ってくれるかもしれない」

そう思い、一度は見送りました。でも、遂に明日命の期限が訪れると分かると、 矢も楯もたまりません。泣きながら画像に書いてあった電話番号に電話をかけ、譲渡条件を聞きます。ボランティア団体が言うには、2匹一緒にどんな状態でも引き取ることが条件なのだそう。それを聞いた上で、Nさんは引き取ると伝えます。そして、仕事を片付け、新幹線に飛び乗りました。なんと、大阪府から山口県まで駆けつけたのです。

ユキちゃんたちと対面し、そこで初めて体がボロボロだと知らされました。ビックリしたと同時に、怒りもこみあげてきたそうです。

「なぜ、こんなことをしなくてはならないのか……」

その怒りをユキちゃんたちの世話にぶつけました。この子たちを必ず幸せにする。その想いは3匹の先住猫たちにも通じ、温かくユキちゃんとお兄ちゃんを迎えてくれました。

ずっとのお家に迎えられたユキちゃん。これでめでたしめでたしといくかと思いましたが、そうは問屋が卸さない。下半身に受けた虐待は後遺症がありました。それは、排泄のコントロールができないというもの。神経が切れているのか、自然にコロンとうんちが出てきてしまうのです。

ですから、ユキちゃんを引き取ってからNさんの日課は、朝起きるとユキちゃんのうんちを片付けること。どこにあるか分からないので、まるで宝探し!寝室の床にコロンコロン、窓のレールにもコロンコロン。大変かと思いきや、Nさんは笑顔で言います。

「ユキは良い子だから、良いうんちばかりなんですよ。下痢は一度もありません」

そう言ってくれるNさんをユキちゃんはとても信頼しています。いつもNさんにベッタリ。お風呂の時は一緒にいられないので、脱衣所でじっと待ちます。「まだかな。もうすぐあえるかな」と、ずっとわくわくしているんですって。顔を近づけると、Nさんのお鼻をがぶり。これは猫のキスなんですよ。

 

でも、知らない人は怖い。これも虐待の後遺症か、Nさん以外の人間に近寄ろうとは決してしません。威嚇することもなく、部屋の隅へ。隅に行けないのなら、頭だけテーブルの下に隠すことも。この姿にNさんは、「大切にしてあげなくては」と気持ちを新たにするのだそう。

大切に大切に育てられたユキちゃんは、今では家の8匹の猫の中で3番目に体の大きな子になりました。1番大きいのは、ユキちゃんのお兄ちゃんのクリくん。一緒に引き取られたクリくんとは、ずっと仲良し。2匹で寄り添い過ごします。時々、喧嘩はしますけど。

 

体が大きい2匹の後ろ姿は、まるでクマのよう。ユキちゃんは毛皮が白いので、シロクマにそっくりです。クマといっても、2匹は優しい性格。Nさんが落ち込んでいる時はそっと傍にいてくれるとか。

ユキちゃんのこの穏やかな様子からは、ボロボロになって保健所に収容されていたなんて想像もつきません。それでも、それはかつてあった現実です。

虐待の可能性…それはユキちゃんから下半身の神経を奪いました。もしこれがなければ、ユキちゃんはもっと自由な体だったでしょう。可愛くないから虐待を受けていたのか、別の理由だったかは分かりません。

しかし、理由が分かったところで虐待の肯定になりません。猫であっても人間であっても、虐待つまり暴力が生み出すのは、悲しみと怒りだけ。

これは殺処分にもいえることではないでしょうか。邪魔だから殺せば解決。それが正しいことなのか、もっと多くの人と考えていきたいものです。

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