「激しい痙攣を1日に何度も」覚悟を試された日々 重いてんかんのある子猫の里親になって

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

ある日、私が何気なくFacebookを見ていると、小さな子猫が激しい痙攣(けいれん)発作を起こしている動画が出てきました。転げまわるあまり、玄関の土間に落ち、そこでもまだ飛び上がったりしていました。

その子猫は、沖縄の保護施設にいて、名前をノエルと言いました。1日に何度も激しい痙攣発作に見舞われていたため、クリスマスの奇跡が起きて発作が無くなりますように…という願いを込めて、名付けられたそうです。

私は長く動物病院に勤めておりますが、こんなに激しい発作は、滅多に見たことがありませんでした。こんなに小さな子猫が「奇跡」を待つだけの状態に置かれていることに、胸が締め付けられました。

    ◇   ◇

現地の動物病院で精密検査を受けた結果、ノエルは「てんかん」と診断されていました。このような激しい発作がある猫は、生涯に渡り発作を起こさないようにする「抗てんかん薬」を飲まなければなりません。となると、医療費も考慮しなければならず、ノエルの里親さんが見つかる可能性はとても低いのではないかと心配になりました。ノエルは死ぬまでずっと、保護施設での生活になるのかしら?

そんなことを考え、気づけば、私は「里親を希望します!」と保護施設にメッセージを送っていました。ノエルの年齢も性別も性格も訊かずに…。

「てんかん」と聞いて、私は獣医師になったばかりの頃に出遭った犬のことを思い出していました。その犬は十数年に渡り抗てんかん薬を飲んでいたために肝硬変になってしまい、大量の腹水が溜まっていました。出遭った翌日に亡くなってしまいましたが、その犬はほとんど動物病院に行くことは無く、薬だけ延々と飲んでいたとのことでした。

てんかんは、抗てんかん薬を発作が起きない必要最小限の用量で服用して、定期的に健康チェックを受けれていれば、寿命を全うすることが出来る病気です。しかし、薬は肝臓で代謝され、代謝物の一部は腎臓から排泄されます。肝臓や腎臓に余計な仕事をさせてしまっているのも事実です。

このようなことから、私はてんかんの犬猫に、西洋薬の使用量を出来るだけ少なくする一方で、食事や中医学を併用することで発作のコントロールをして、肝臓や腎臓の負担を減らすという治療方法に興味を持っておりました。ノエルを引き取って、この治療をやれるだけやってみようと、自分なりに考えていました。

覚悟が試される出来事が次々に

ノエルが家に来てすぐに、私の覚悟が試される出来事が次々におこりました。てんかんを持つ猫は、生まれつき脳に障害がある場合も、発作が続くことで脳機能に障害が出てくる場合も、両方あります。

ノエルは運動神経が全く発達しておらず、例えばソファに跳び乗ることすら出来ませんでした。歩くのも弱々しく、子猫らしい遊びは全く出来ず、日中はずっと部屋の真ん中でぼんやりとお座りしていました。さらに、家に来てすぐに大風邪をひき、飲まず食わずになってしまいました。ケージに入れて2~3時間おきに強制的にスープを飲ませ、点滴や注射の毎日となりました。

それでも1週間もすると風邪は峠を過ぎ、今度は異常な食欲で食べものの中に顔を突っ込んで食べあさりました。と、安心したのもつかの間、ある日の明け方、大きな痙攣発作が起こってしまいました。その後は発作を抑える薬を多めに飲ませたため、ぼんやりはさらに悪化し、しばらくは食欲も落ちてしまいました。

さらにノエルは、痙攣発作の他に顔面がぴくぴくしたり、私達には見えないものを追いかけたり、興奮してよろよろ歩き回り、凶暴になってあたりかまわず咬みついてくることがありました。この興奮が続くとさらに大きな発作が起こるので、やむなく私はノエルの首根っこを掴んでぶら下げて、お尻に鎮静薬を注射しました。

ノエルが歩き回るときには、後ろを付いて歩きました。トイレが覚えられず、いつどこに排泄するかわからないからです。腰を落とす「しぐさ」があればすぐにトイレに入れましたが、トイレに入れると何もしないこともしばしばでした。あるときは、私の過干渉に嫌気がさしたのか、私から逃げ走りながらうんちをしました。

これまで述べてきた症状を包括的に改善するための漢方薬と、発作を抑えるための少しの西洋薬と…ノエルにはたくさんのお薬を朝晩飲ませました。ごはんも、てんかん発作を抑えるための食事をつくり与えましたが、なかなか食べてくれませんでした。  

このような日々がおよそ1カ月続き、大きな発作は無く過ごしておりましたが、あるときふと気づくと、ノエルの食欲は限りなくゼロで、触ると手足が氷のように冷たくなっていました。ちょうど2月の寒い時期でした。私はすぐに温灸で身体を温め、鍼をツボに刺しました。以後、毎日鍼灸をして温めたミルクを飲ませたところ、次第に元気になり、手足も暖かく血の気が戻ってきました。少ない量で飲ませていた抗てんかん薬ですが、効きすぎていたようでした。

今では顔のぴくぴくや痙攣発作はほとんどなく、上手くコントロール出来るようになっています。低気圧が通過する前には発作も起こりやすいことがわかってきたので、そんなときは多めに漢方薬を飲ませています。ときどきボール遊びをしていますが、ほとんど空振りです。しかし、遊びに興味が出てきたのは良いことです。

トイレでの排泄は、家に来てから約4カ月経過しましたが、打率8割といったところです。体格は、保護されたときからほとんど成長していないようです。保護されたときはすでに、生後6カ月程度だったのかも知れないと思っています。現在体重は2キロで、とても小さい猫です。抗てんかん薬はとても少ない量で飲ませていますが、今後はさらに減薬予定です。

そして、純和風の三毛猫に、ノエルという洒落た名前は似合わないなぁ、呼びにくいなぁ(名づけ親さんごめんなさい!)と思い、ノエルちゃんがノルちゃんになり、今はのりちゃん(のりこちゃん)になりました。

保護施設に入るまでの経緯を聞いて衝撃

大発作が起こった後に初めて、私はノエルが保護施設に入るまでの経緯を、おうかがいしました。そして、当時かかっていた病院のカルテを入手して読んだところ、とても衝撃的なことが書いてありました。

最初に保護した方は、ノエルの痙攣発作をみて(困り果てて?)、友人にお金を付けてノエルを譲ったようでした。譲られた友人は、やはりノエルの痙攣発作が続くために近くの病院でお薬をもらいましたが、発作はおさまらず、セカンドオピニオンで訪れた病院でノエルをどうするべきなのか、獣医師に相談していました。

すると、その獣医師は「元に戻す(保護した場所に?元の飼い主に?)」ことや「保健所に持ち込む」ことを勧めておられました。詳細な会話の内容はわかりかねますが、保健所に持ち込むということは、このような障害のある猫の場合はすなわち安楽死させられる可能性が高いと考えられます。獣医師からそのようなお話があったことが、私を暗い気持ちにさせました。

私は、ノエルの魂に呼び出されたのだと思いました。私の家には現在、雄猫が2匹おり、ちょうど雌猫を1匹飼おうと思っていました。その気持ちが、遠くにいるノエルの魂の叫びをキャッチしたのだと思います。これからも、ノエルを大切にしていこうと思います。

「てんかん」とは 脳全体あるいは一部分に過剰な電気が流れて、脳内に嵐が起こるような状態が繰り返しおこる慢性的な脳の病気です。大きな発作が起これば、その発作で脳に障害が起こり、さらに発作の起こりやすい脳になってしまいます。ですから、発作は出来るだけ起こさないように、かつ肝臓や腎臓に出来るだけ負担がかからないように最小限の用量で抗てんかん薬を服用して、コントロールしなければなりません。

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