「猫エイズでも、みんなと一緒に過ごさせてあげたい」ハンデを知るからこそ―聴覚障害の夫婦の挑戦

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

玄関でわくわくとスタンバイする4匹の猫たち、この子たちが待っているのはYさんの夫です。遠くから車の音が聞こえると、「もうすぐだ!」と集まってくるのだそう。車の音を聞き分けられるんですって。賢い子たちです。

猫は5歳のオセロくんを筆頭に4匹、そして人間は夫妻2人のY家。夫妻は聴覚障害がありますが、生活に不自由はありません。共に介護士として働き、休みの日は猫たちとまったり。時々、オセロくんたちには内緒で、こっそり猫カフェも楽しんでいるのだそう。

一見、なんの変哲もないごく普通の猫好き家庭に思えるでしょう。実は、オセロくんが猫エイズのキャリアです。発症はしておらず、5歳になる今まで大きな病気にもなったことがありません。

しかし、猫エイズは命に関わる感染症。多頭飼いは難しいといわれています。それをクリアするまで、Yさん夫妻は様々なところに相談に行きました。

まず、動物病院です。オセロくんに負担がかからない方法で、多頭飼いすることはできないかと相談しました。そして、大阪市淀川区十三本町にある保護猫カフェ「ねこの木」にも相談です。

専門家の方々からのアドバイスはほぼ同じでした。それは、「人間が見ていないところでは一緒に過ごさせない」と「ケンカを始めそうになったら引き離す」。忘れてはならないのが、「爪は頻繁に切る」です。

これらを守れば、例え猫エイズのキャリアであっても多頭飼いは可能だと教えてもらいました。

早速、夫妻はアドバイスをもとに、猫を迎える準備を始めます。まず、以前一緒に暮らしていた猫が使っていた部屋を綺麗に。他界したあとも、思い出が消えそうでなかなか手がつけらなかったのを、思い切って片付けです。クーラーも新しいものに、キャットタワーも新品です。ペットカメラも設置し、外出時にも定期的に猫たちの様子を確認。そして、家中に消毒液も配置。これ、コロナ以前から行っているのだそう。

そこまでしてYさん夫妻が迎えたかった猫とは、保護猫カフェ「ねこの木」で新しい家を探していたチクワちゃんです。元は野良猫で、生後約2カ月のころ保護されました。人懐っこいサビ猫さんで、特に夫がメロメロです。

「こんな美人、見たことがない!ぜひ、うちの子になってほしい!」

と一目惚れ。この時、チクワちゃんは生後約3カ月。

妻の方は、チクワちゃんと同じく生後約3カ月ほどのハンルーくんとイアンくんのイケメンっぷりにメロメロです。2匹でいる姿が、本当に愛らしかったのだそう。絶対に引き離してはならないと感じ、一緒にお迎えしました。

あとから分かるのですが、ハンルーくんとイアンくんは実の兄弟。血のつながりがあるため、結びつきが強かったよう。妻の直感は正しかったみたいですね。

さて、人間はこれで良いのですがオセロくんの方はというと、突然現れた未知の生物にビックリ。最初は遠くから、「なんやあれは…」とうかがうだけ。Yさん夫妻がうながすと、恐る恐るケージ越しに子猫たちの対面しました。初めてみる自分以外の猫に、不思議な感覚だったでしょう。

オセロくんには7匹の兄弟がいますが、オセロくんだけが猫エイズのキャリア。ですから、ずっと1匹だけ隔離されて育ちました。それが今、初めて一緒に過ごせる兄弟分が出来たのです。

現在、一緒に暮らし始めて3年、今ではチクワちゃんが中心となり4匹の猫は良いバランスでのんびり過ごしています。Yさん夫妻がいない時は、別々の部屋。在宅中は4匹一緒にごろごろ。心配していたケンカもありません。ハンルーくんとイアンくんが、のんきな性格なのが良かったみたい。

オセロくんだけでなく、他の猫たちも半年に1度の検診は欠かしません。これがあるからこそ、安心して過ごすことができます。オセロくんが他の猫に毛づくろいをしても、一緒に寝ても大丈夫だというお墨付きを半年ごとにもらうのです。

例えハンデがあっても、少しの努力と大きな愛情があれば不自由なく過ごせる。これをYさん夫妻は知っているからこそ、猫たちも幸せに過ごせるのでしょう。いつまでも家族全員が仲良く過ごせますように。

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