新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、旅行や会食・イベント開催などが自粛され、これまでと違う生活様式にストレスを感じている方も多いのではないでしょうか。医療従事者のコロナワクチン先行接種が始まる一方で、現場で働く人々を取り巻く状況は必ずしもよくなっているとは限りません。大阪府在住のSさん(30代・看護師)にお話を伺いました。
Sさんはコロナ病棟を有する病院で看護師として勤務していました。しかし長引くコロナ禍において、長年勤めてきた病院を退職することとなったのです。
コロナ病棟がある病院で働くという緊張感
Sさんが勤務していた病棟はコロナ病棟ではありません。しかし病院のルールとして「家族以外との食事は控える」「府外へは行かない」「日常生活に必要なものの購入以外は外出しない」などの行動制限がありました。
Sさんは医療従事者として院内にコロナウイルスを持ち込むことはできないと強く感じており、これらのルールをすべて守っていました。
職場では常に緊張感が漂っており、またSさんも自分が院内にウイルスを持ち込むことはできないという大きなプレッシャーを抱えながら働いていました。
看護師の子どもが受けた心の傷
実はSさん、小学生の女の子を育てるシングルマザーです。Sさんは職場の緊張感に押しつぶされそうになりながらも、一人で育児、家事、仕事をこなしていました。
子どもと向き合う時間を作りたいと思いながらも毎日の忙しさに追われ、子どもとゆっくり話をする時間を持てずにいました。
そんなある日、子どもが泣きながら「学校に行きたくない」とSさんに言い出したのです。Sさんは驚きながらも、その理由を聞くと衝撃的な言葉が返ってきました。
「お母さんがコロナ病院で働いてるから、友達と遊べない」
Sさんがコロナ病棟を有する病院で働いていることから感染リスクが高いと友達の母親に思われ、Sさんの子どもは友達と遊ぶことができない状況が数週間前から続いていたのです。
このことにSさんは大きなショックを受け、退職を考えるようになりました。
医療従事者の疲弊は身体的なものだけではない
医療従事者・看護師としてコロナに立ち向かいたいと思う気持ちがある一方で、医療従事者であるがために制限が多く、また子どもにも大きな影響を与えていることに思い悩んだSさんは身体的にも精神的にも疲弊していました。
退職して数カ月が経ったいま、Sさんは大好きな看護師という職種を嫌いになることなく、大切な子どもの心のケアを行ないながら、パート勤務として近所の眼科クリニックで働いています。
外出自粛は継続しているものの、細かなルールに縛られることなく、いまの自分の状況にあった働き方をしているそうです。
医療従事者を取り巻く状況は、自分が感染してはいけないという大きなプレッシャーと家族が受ける偏見や差別によって、体も心も疲弊しています。その疲弊は決して慰労金というお金だけでは解決できるものではありません。
新型コロナウイルス感染者数が下げ止まりしている状況の中いま一度、私たちも自分の行動に責任を持ち、しっかり考えて行動することが大切です。