愛知県知事リコール不正、なぜ起きた? やらないとわからない、尋常ならざるリコール署名の実態

村山 祥栄 村山 祥栄
高須クリニック・高須克弥院長
高須クリニック・高須克弥院長

リコールを甘く見ていた?高須院長

「YES!高須クリニック」でおなじみの高須克弥院長の呼びかけに、河村たかし・名古屋市長、作家の百田尚樹氏、評論家の竹田恒泰氏などそうそうたる面々が賛同し始まった大村秀章・愛知県知事リコール運動だが、結果的に必要署名数86万筆に対し半分の43万筆しか集まらず、挙句の果てにその大半にあたる36万筆が不正署名だというトンデモ事件が物議を醸している。

世間では「極めて悪質」「民主主義の冒涜」「計画的犯行!?」などと揶揄されるこの事件だが、実は高須院長自身の大誤算、リコール署名を甘く見過ぎていたのではないかというのが、リコール同様の直接請求をやったことがある一人としての私の見解だ。

リコール(直接請求)は選挙における民主主義を補完する参政権のひとつなのだが、民主主義下において選挙とは最高に優先されるものなので、それを覆すというのはよっぽどのことがないと認められない。「よっぽど」とは、「住民の三分の一以上が署名し、さらに住民投票で過半数を越える」ということを指す。

通常の署名とは何もかもが異なるリコール署名

確かに住民の三分の一の署名と聞けば、「ひょっとしたら出来るんじゃない?」と思われるかもしれないが、それは皆さんが触れたことのある普通の署名の話だ。今回行われた直接請求という署名は、普段接する署名とは格段に異なる。なぜなら、この署名には法的拘束力があるからだ。まず、問題になってることだが、署名は自筆のみ、代筆も原則不可(字が書けない方に限り例外的に認められる)、ハンコか拇印がないものも不可だ。よくありがちな一人で家族全員書くというのはもちろんNGだ。

さらに名前も選挙人名簿と全て突合され、通称名などで書かれている者、住民票がない者なども全て無効になる。不正をした連中もそこまでチェックされないだろうとたかを括っていたのかもしれないがこのチェック作業は膨大な数の職員を投入して一筆一筆徹底的にチェックされる。

さらに収集の問題でいうと、市区単位で集めて、その地区の選挙管理委員会に提出するルールなので、一つの署名用紙は市や区をまたげない。例えば名古屋市天白区の署名用紙には他市住民はもちろん名古屋市の他区在住者も署名できない。していた場合はこれも無効になる。したがって、真面目に丁寧にやったとしても1割~2割の無効署名が発生するのが常だ。しかも、署名開始を宣告してからたった二ヵ月しかない。

大規模リコールの成立は過去に一度だけ、しかも成功した町はまさかの…

ゆえに、今回の様な大規模なリコールが成立した事例は、過去に一例しかない。ただ、皮肉なことにその唯一の成功事例は賛同者である河村たかし市長が中心になった名古屋市議会リコールなのだ。今回の事件の不幸は、身近に成功事例があったことに加え、著名人が参加していることもあり、達成できなかったとしても余りにみすぼらしい数字で終わらせる訳にはいかないということもあったように思う。そして、最大の誤算は、収集数にせよ、署名のチェック機能にせよ、明らかに「甘く見ていた」ということに他ならない。

かねてより専門家の間では大都市における現実的なリコール制度への変更といった課題は指摘されているものの、選挙結果を覆す制度がそう簡単に実現できるほど甘くはない。

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