公的な観測地点で、最も深く雪が積もった世界記録をご存じだろうか。1927年2月14日、滋賀県米原市の伊吹山(標高1377メートル)測候所で観測した11メートル82センチが世界1位で、京都の「清水の舞台」の高さに匹敵する。気象庁の観測記録の国内2位は、青森市酸ケ湯の5メートル66センチなので、すさまじい記録だ。
伊吹山をはじめ、滋賀県北部は国内有数の豪雪地帯だ。長浜市は近畿以西で唯一、国の「特別豪雪地帯」に指定されている。県最北の集落、同市余呉町中河内は、1980~81年の「56豪雪」で約6メートル50センチ(地元住民による観測)の雪が積もり、83日間も孤立した。同町柳ケ瀬は、気象庁観測では伊吹山に次ぐ近畿2位の2メートル49センチの記録がある。
なぜ、滋賀県北部は雪が多いのか。彦根地方気象台の山下寛地域防災官(62)に聞いてみた。
「理由の一つは、県北部の地形です」。雪雲は、高い山を越えるときに雪を降らせて勢力を弱めるが、滋賀・福井県境の山々は標高800~900メートル程度で、北陸や山陰に比べ低い。このため、若狭湾から滋賀県に流れ込む雪雲は、勢力があまり衰えず、発達したまま伊吹山などにぶつかり、大雪をもたらすという。
もう一つの理由は「日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)」という。JPCZとは何なのか。
シベリアから日本海に向かって吹き込む寒気は、中国・北朝鮮国境の白頭山(2744メートル)一帯の山岳地帯にぶつかり、「北回り」と「南回り」の気流に分かれる。
南北に分かれた気流は、日本海で再び合流する。この合流する一帯がJPCZで、南北からの雪雲が合わさる形となり、大雪をもたらす積乱雲が特に発達しやすい。JPCZは、北陸沖~山陰沖のさまざまな場所で発生するが、統計的に若狭湾付近が最も多発地帯という。
山下さんは「京都や兵庫の北部よりも、滋賀北部は豪雪の条件がそろっています」とする。
実は、山下さんは82~83年、伊吹山測候所に勤務した経験がある。真冬も1週間交代で山頂付近の測候所に詰め、積雪を計測した。長さ数メートルの計測用の棒が埋まりそうになり、棒を継ぎ足して測ることもあったといい、「世界記録も、何本も継ぎ足したのではないでしょうか」と話す。
伊吹山測候所は、1989年に無人化され、2001年にはその役目を終えた。しかし、積雪世界記録は今も塗り替えられていない。