秋冬の風物詩「焼きいも」。最近はあまり見かけなくなったが、寒い季節になると焼きいも販売のトラックが良い匂いをさせながら「甘くて美味しいおいもだよ~」と、毎日のように住宅街をゆったりと走っていたものだ。昭和生まれの原風景と言っても過言ではないだろう。
時代と共に消えゆく運命かと思われていた「焼きいも」だが、近年また光を浴びて輝いている。何故なのか? 私が子供のころはおばあちゃんの嗜好品であった「焼きいも」が何故脚光を浴びて、いまや「スイーツ」の最前線に飛び出してきているのか?
私のようなオッサン世代には「焼きいも」と「スイーツ」の間には超えられない壁があるように考えている方も多いのではなかろうか。しかし近年、サツマイモの品種改良が急速に進み、信じられないほどの甘さをほこる、いわゆる「蜜芋」が増え、「焼きいも」界隈は改めて注目され、老若男女を問わず愛される最先端の「スイーツ」に昇華しているのだ。
そんな中、昨年12月に東京・上野駅前に、茨城県行方(なめがた)市全面協力の下、同市が生んだ農林水産祭天皇杯受賞のさつまいもを使った極上「焼きいも」や、さつまいもスイーツのテイクアウト専門店がオープンした。
その名もズバリ「Ms.YAKIIMO(ミズ・ヤキイモ)」。迷いの感じられない150㌔ストレートのような店名だ。コロナ禍にある現在、飲食店をオープンするのは大変なことと十分承知。だが、そのような中オープンしたということは相当な自信があるに違いない。おのずと期待が高まる。
上野駅に降り立った私は、初めての光景を目にする。新幹線のターミナル駅であるがゆえ、平時であれば人でごった返しているのが常ではあるが、このご時世だからであろう、全然人がいないのだ。お目当ての「Ms.YAKIIMO」(株式会社RYコーポレーション、東京都港区)は上野駅から歩いて1分、まさに駅前にある。飲食店が多く入るビルの1階。建物の裏手は西郷隆盛像のある上野公園だ。
ビルに入ると真正面に「極上 やきいも」と書かれた暖簾が見え、ほんわりと甘く、そしてサツマイモの皮の焼ける香ばしい独特の良い香りがしてくる。店頭には2台の焼きいも焼き機に5~6本ずつ芋が並べられている。
それでは早速、焼きいもを…と思ったが、どうやら2種類あるようだ。ねっとり系蜜芋の「紅優甘(べにゆうか)」と、ホクホク系の「紅まさり」。「悩んだら両方」という我が家の家訓に従い、両方を注文。まずは紅優甘を手にするも、すでに皮から蜜が溢れている。割ってみると蜜が凄いのがよくわかる。というか、ほぼ全部が蜜部分である。
ひと口食べてみて出た率直な感想が「いやいや、焼きいもの枠超えてますからこれ」である。高校野球に大リーガーの選手が出てきた勢いだ。まず糖度が凄く、それが口の中で絡みつき、そして広がる。まるで天然のスイートポテトだ。「皮も食べれますよ」と取材に対応していただいたRYコーポレーションの佐野さんに言われ、皮のままかぶりついてみる。皮の香ばしさも加わり、絶妙なハーモニーを生み出す。むしろ皮ごと食べた方が美味い。
次に「紅まさり」にチャレンジ。こちらも甘みが強いが「紅優甘」とは違いホクホク系。これも絶品だ。どちらも私の「焼きいも」の概念を飛び越えて来る。ここまで美味しい理由を佐野さんに聞いてみた。
「さつまいもを軸に魅力ある町づくりを目指して開発されたJAなめがたしおさいのさつまいもで、2005年より甘くしっとりとした焼きいもに焼き上げるための試験をスタートし、約10年もの歳月をかけて焼き方を開発しました。また、同時に栽培技術の向上、デンプン含有量に応じた出荷時期の調整も行い、2017年に最高栄誉である農林水産祭天皇杯を受賞した行方産のさつまいもを使っています」と佐野さんは言う。
品種改良やデンプン含有量による出荷時期の調整など、地道な研究と徹底した品質管理のなせる技だ。しかし「焼き方の開発に10年」とは恐れ入る。私の中ではスイーツの枠も超え、もはや芸術の域に昇華している。しかも1本400円(紅優甘・税抜)という破格の値段だから驚きだ。
店のラインナップには茨城県産の生乳と「紅優甘」、新品種の「行方の紫福(なめがたのしふく)」(ふくむらさき)を使ったソフトクリームや、干しいも、かりんとうやフィナンシェなどのスイーツも豊富に揃っている。焼きいもに使われる品種も季節ごとにベストな品種がチョイスされるそうなので、飽きることなく楽しめそうだ。テイクアウト専門店ということもあり、このご時世にマッチした形態。焼きいもの概念を覆す一品、ぜひお試しあれ。
□店舗名 Ms.YAKIIMO(ミズ ヤキイモ)
□ジャンル さつまいもスイーツ専門店、テイクアウト
□所在地 東京都台東区上野公園1-54 上野の森さくらテラス 1F
□電話番号 03-3834-9221
□営業時間 11:00~21:00(緊急事態宣言中は20時まで)