自分の歯は「自分の歯」で守る 歯が備えている感染防御システム

ドクター備忘録

中塚 美智子 中塚 美智子
歯も虫歯という細菌感染症から自身を守ろうとしている(Siberian Art/stock.adobe.com)
歯も虫歯という細菌感染症から自身を守ろうとしている(Siberian Art/stock.adobe.com)

 新型コロナウイルス感染者数がまだまだ多いですね。そのような中、手洗いやマスクの着用、フェイスシールドの使用など、ウイルスが体内に入らないようにと、みなさま日々さまざまな感染防御策を講じていらっしゃることでしょう。

 歯も虫歯という細菌感染症から自身を守ろうとしています。「感染防御システム」という言葉自体があるわけではないですが、「歯の神経が細菌感染しないように最後まで守る」というイメージでしょうか。

 歯には表層(私たちが普段目にする歯の部分)から順にエナメル質、象牙質があり、そのさらに内側に象牙質に囲まれた空間があります。その空間に、俗に「歯の神経」と呼ばれる歯髄(=しずい)を容れています。歯髄には血管や神経などがありますが、歯髄が細菌感染するとその歯は炎症を起こし、栄養分や酸素の供給路を絶たれ、いわゆる「死んだ」状態になってしまいます。歯にとっては最も避けたい状況です。

 虫歯はその原因菌が作り出す酸がエナメル質を溶かすことでできますが、虫歯が徐々に奥に広がっていくにつれ、歯髄が細菌感染する危機が迫ってきます。エナメル質の内側の象牙質には象牙細管(=さいかん)という非常に細い管状の構造物がたくさんありますが、残念なことにエナメル質と象牙質の境界部から歯髄までトンネルが通っているような構造になっています。虫歯の原因菌などがこのトンネルに入り、歯を壊しながら歯髄に到達すると感染してしまうため、歯髄にある象牙芽(=ぞうげが)細胞は危険を察知すると、そのトンネルの内部やトンネルの歯髄側の出口付近に大急ぎで象牙質や象牙質のようなものを作り、細菌の侵入を防ごうとします。

 つまり、物理的に通路や出口を封鎖して、歯髄への細菌の侵入を止めようとするのです。象牙細管の出口を封鎖する象牙質を修復象牙質や第三象牙質などと呼ぶことがありますが、これらを顕微鏡で観察すると非常に雑なつくりになっていることがあり、慌てて作られたのだなと感じずにはいられません。

 このシステムは歯ぎしりなどで歯が擦り減った場合などにも作動します。また薬剤を用いて人工的にシステムを作動させ、歯髄の細菌感染を防ぐ治療も行われています。

 私たちも日々ウイルスと闘っていますが、歯も生き残るために一生懸命闘っているのです。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース