「東京立ち食いそば名店 全部まずい」…月刊誌の衝撃的な記事はどうやって生まれた? 編集部に聞いた

中将 タカノリ 中将 タカノリ

「ラーメン、カレー、牛丼に飽きた頭の悪い男たちが今注目しているのが立ち食いそばだ。」

衝撃的な書き出しで始まる月刊誌「実話BUNKA超タブー」(コアマガジン)2月号の記事「東京立ち食いそば名店 全部まずい」が大きな注目を集めている。

「無駄にでかい衣のかき揚げはほとんどスカスカで空気を揚げたかのよう」「田舎のサービスエリアレベル。汚いネギが盛り沢山でまずいそばがてんこ盛り。」「店員がムカつきすぎて喧嘩しそうになった(中略)人間の食べ物じゃない」など店名、写真入りで東京各地の有名立ち食いそば店をぶったぎるその過激な内容に、Twitterユーザー達からは「これ訴えられたら、名誉毀損、精神的苦痛、とかで50万円以下の罰金または3年以下の懲役来ますよ」「長野県の立ち食い蕎麦食べるとびっくりするくらい美味しいからみんなきてね」「悪意ある書き方だけどある意味宣伝になってるな。逆に興味持つ人いるんじゃないか。」など数々のコメントが寄せられている。

読んでいて「ここまでやっていいのか!?」と思ってしまうこの記事だが、果たしてどのような意図で企画されたものなのだろうか? 記事制作にあたった「実話BUNKA超タブー」編集部員の方にお話をうかがってみた。

中将タカノリ(以下「中将」):とても刺激的なテーマの記事ですが、どのような意図で企画されたのでしょうか?

編集部員:読んだことが無い方からすれば刺激的なのかもしれませんが、私どもが作っている「実話BUNKA超タブー」では基本的になにかにつけ物事を批判的な目線から論評しています。今回の記事のテーマがたまたま立ち食いそばだっただけで、別段変わったことをしているつもりはないんです。

そもそも高級なそばに比べたら立ち食いそばなんて美味いわけないんですよ。それをわざわざまずいと言うのも無粋かもしれませんが、近年、立ち食いそばや街中華など、安くて早くて腹にたまる類のファーストフードを必要以上にブランディングしてありがたがる気持ち悪い風潮があります。この記事はそういった風潮に対するアンチテーゼなんです。

中将:「関西の立ち食いそばは美味いので、もしかして執筆者は関西人目線から東京のそばを批判しようとしているのではないか?」という意見もありました。

編集部員:そういう深い意味はないです(笑)。仮に私どもの編集部が関西にあれば、関西の立ち食いそばに対して同じような記事を書いてると思いますが…本当に関西の立ち食いそばがとても美味しい可能性もあるのでそこはなんとも言えませんね。

中将:そこは関西人の僕としてはぜひ一度お試しいただきたいところですね…。ちなみに取り上げられた店舗からのクレームは無いのでしょうか?

編集部員:仮にあっても、これは味について評価しているだけなのでとやかく言われる筋合いはないです。それに、SNSに上がっているページだけじゃなくて全部読んでもらうと、美味しい店には美味しいってちゃんと書いてるんですよね。

中将:今回は立ち食いそばでしたが、今後、新たに取り上げてみたいジャンルはありますか?

編集部員:どれぐらい需要があるかわかりませんが、街中華について取り上げてみるのもいいかもしれないですね。私自身、街中華に行くことは多いし街中華自体が悪いとは思いませんが、それを過剰にブランド化したり、汚くて味もイマイチな店に対して「だがそれがいい」みたいに言う風潮は違うと思うんです。

「実話BUNKA超タブー」2021年2月号

定価:本体556円+税
発売日:2021年1月4日
公式サイト:https://www.coremagazine.co.jp/cho_taboo/

 ◇ ◇

B級な大衆食をむやみにありがたがる風潮へのアンチテーゼ…編集部員の方と話していて僕はグルメ漫画「美味しんぼ」1巻2話で主人公の山岡士郎がフランス料理の高級食材を盲信する食通たちに言い放った「中身じゃなく名前を有難がってるだけなんじゃないの?」というセリフを思い出した。1980年代における高級フランス料理のように、2020年代の現代では立ち食いそばや街中華が批判をためらわれる「権威」になりつつあるのだ。

今回の「実話BUNKA超タブー」の記事はたしかに配慮の行き届いた上品なものではない。しかし世間の批判を恐れてすっかりおとなしくなってしまった近年のマスコミ業界に、一つや二つくらいこういう反骨精神を忘れないメディアが残されていてもいいんじゃないかと感じた。

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