予想以上の相性に驚いた。「南座」(京都市東山区)で開催中の展覧会『鬼滅の刃×京都南座 歌舞伎ノ舘(やかた)』(23日まで)。映画が大ヒット中という時流に合うものの、少し安直な企画では?と内心いぶかしく見に行ったが、「鬼滅」のキャラクターが、それぞれに合う歌舞伎の役柄と違和感なく融合。「鬼滅」か歌舞伎、どちらかを知っていれば、それなりに楽しめる空間になっている。
鬼との戦いに挑む主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)、妹の禰豆子(ねずこ)ら5人は、歌舞伎で化け物退治をする演目『蜘蛛(くも)の拍子舞(ひょうしまい)』の坂田金時ら四天王と、源頼光(らいこう)の扮装(ふんそう)に。南座の舞台上やロビーには、そうした姿で見得(みえ)を切る炭治郎らの描き下ろしパネルがずらりと並ぶ。
「柱(はしら)」と呼ばれるキャラたちの扮装にもこだわった。公開中の映画で大奮闘する「煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)」は、歌舞伎で孤軍奮闘の大立ち回りを演じる『義賢最期(よしかたさいご)』の木曽義賢に。
首に蛇をはわせてネチネチとした「伊黒小芭内(いぐろおばない)」は、歌舞伎で執心のあまり蛇体となる『娘道成寺』の清姫の霊に。
天才的な剣士だが、どこか上の空な「時透無一郎(ときとうむいちろう)」は、歌舞伎でクールに人を斬(き)る『鈴ケ森』の白井権八に。
恋に命を懸ける「甘露寺蜜璃(かんろじみつり)」は、いちずな『阿古屋』に。合計8つのキャラクターがそれぞれに合う歌舞伎の役柄の姿となり、実物の歌舞伎衣装と合わせてパネルを展示している。
近年の歌舞伎界は「ワンピース」や「ナルト」、「風の谷のナウシカ」など人気漫画やアニメを原作に、型破りな新作歌舞伎も上演してきた。今後、「鬼滅」の歌舞伎化も当然視野に入ってくるだろう。ただ、映画が大ヒットしているだけに、安易な舞台化は、かえって失笑を生みかねない。
人間と鬼、光と闇…など「鬼滅」の描く表裏一体の世界は、伝統芸能が得意とする表現手法でもある。もしも、実現するならば、鬼滅ファンも、歌舞伎ファンも、納得できるクオリティーを目指してほしい。コロナ禍の中、企画を練る時間は、たくさんある。