パソコンで「鬼滅の刃」と入力しようとしたら「鬼滅」が変換されず、最初の変換候補に「毀滅」が出てくる。「これじゃないよ」といいながら「鬼」と「滅」をそれぞれ別にタイプ、変換しているのだが、そもそも「毀滅」ってどういう意味なのだろう?
日本語には「鬼滅」という言葉がない
パソコンやスマホで「鬼滅の刃」というワードをよく打つようになったという人が多いのではないだろうか。ところがパソコンのローマ字入力で「KIMETSU」とか、ひらがな入力で「きめつ」と打って変換キーを押しても、出てくるのはたいてい「毀滅」という見慣れない二字熟語。Googleの検索候補には「鬼滅の刃」と出るけれど、パソコンに搭載されている辞書機能では変換されない。スマホ(android)に至っては「毀滅」さえ変換候補にあがってこないのだ。
「どうやら鬼滅という日本語は存在しないのだな」と気づく。そしてあらためて「毀滅」という言葉があることを知る。せっかくの機会だから「毀滅」の意味や関連する情報を調べてみた。
「毀滅」の「毀」がもつ意味
「毀滅」をWiktionaryで調べてみると、これは名詞で、意味は「壊して滅ぼすこと」「死を悼むあまり、やせ衰えて死ぬこと」とある。関連語として「滅失」「損傷」が挙げられている。
また日本漢字能力検定協会の「漢字ペディア」によると「やぶる」「やぶれる」「こわれる」「そこなう」「やせる」「やつれる」など、破壊のイメージが強いワードが並ぶ。ほかの辞書で調べても、解説文の表現が違うだけで、当然に同じ意味が書かれている。
私たちの日常会話ではほとんど使わないし書く機会も少ないけれど、法律の条文には「毀滅」が使われていた。
民法が2005年に現代日本語文法化(日常的に使われる口語体に改める)される前の、文語体で書かれていた条文には「滅失させる」や「損傷させる」のことを「毀滅する」と表記されていたのだ。
また「毀」の字を使った法律用語で「毀棄(きき)」という言葉がある。
たとえば刑法第259条の条文だ。
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〔権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を「毀棄」した者は、5年以下の懲役に処する〕(カギカッコは筆者がつけた)
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ほかにも「毀」がつく熟語の一例をあげると、次のような言葉がある。
毀損(きそん)……物を壊すこと。物が壊れること。利益・体面などをそこなうこと。
毀棄(きき)……物を壊したり捨てたりして、役に立たないようにすること。
毀壊(きかい)……壊しやぶること。また、壊れやぶれること。
謗毀(ぼうき)……けなすこと。そしること。
毀傷(きしょう)……損ない傷つけること。
(出典:weblio)
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余談ながら、刃物が傷むことを「はこぼれ」というが、漢字では「刃毀れ」と書く。
前述したように、壊したり傷つけたり損なったりする破壊のイメージは、「毀」の字がもつ意味だと分かる。
「毀」の字の成り立ち
漢字/漢和/語源辞典(https://okjiten.jp/kanji2149.html)によると、「毀」という漢字は「臼」+「土」+「殳(るまた)」で構成されている。
「臼」は木や石を削ってつくる「臼」の象形で、その下にある「土」は土地の神様を祀るために柱状に盛り上げて固めた土の象形とされる。
部首の「殳」は「ほこづくり」ともいい、手に木の杖をもつ姿を表す象形だ。
全体で「土を突きつぶす」という意味になり、そこから「壊す」「傷つける」「損なう」という意味をもつ漢字になったといわれている。
これに「ほろびる」とか「きえる」という意味をもつ「滅」を合わせた「毀滅」という言葉には、破壊の意味が強く込められているのだ。