阪神OBがオーナーの焼肉店で、阪神OBがホスト役となり、阪神ファンと交流する「虎づくし」のパブリックビューイング(PV)が今年3回開かれ、大成功を収めた。コロナ禍で試合数も減り、球場への入場制限がある中、露出が減っているOBにとっても、生解説を聞けるファンにとっても、願ったり叶ったりの企画。好評だったことで、主催者はオフのイベント開催も計画中だ。
これぞ、まさしく”三方良し”のイベントではないだろうか。おいしい焼肉を一緒にいただきながら懐かしいタイガースOBを囲んでのぜいたくなテレビ観戦。生解説はもちろん、ときにはあのときの裏話まで聞けるのだからファンにとってはたまらない。
このPVは今年3回実施。いずれも甲子園球場から歩いて5分ほどのところにある炭火焼肉店「伸」が会場となった。この店名を聞くと、阪神ファンならピンとくるのではないか。そう、オーナーは”亀新フィーバー”で沸いた1992年に9勝を挙げたドラフト1位右腕の中込伸さんだ。
中込さんは2001年に阪神を退団。その後、台湾プロ野球のコーチ、監督など紆余曲折を経て、9年前にこの地で開業。質が良くボリューム満点の肉を提供するとあって、阪神ファンはもちろん、地元の人や常連客に愛され、いまや優良店として根を下ろしている。
「今年はコロナがあって、どこも大変。こうやって、みなさんに集まってもらって本当にありがたいことです。家族の支えがあって、ここまで来ることができました」
中込さんはこの日も現役時代よりふたまわりほど大きくなった体を揺らせながら厨房で切り盛り。ときにフロアに出て、各テーブルを気に掛けながら回っていた。
「今年はセンバツも夏の甲子園大会もなく、プロ野球も試合数そのものが減って、お客さんの入場制限がある。そんな中でも、こうやって来店してくださるお客さんがいますから、がんばらないわけにはいかないでしょう」
PV形式の交流会には、これまで亀山つとむさんや湯舟敏郎さんらがゲスト出演。ラストの3回目となった10月23日の巨人戦(東京ドーム)には法大から自由枠で入団し、主に捕手、代打の切り札として活躍した浅井良さんが招かれた。
中込さんが「向こう(浅井さん)はバー(経営)でこっちは焼肉ですが、同じ飲食業。いろんな職業の方と出会うことで何かチャンスが広がるかもしれない」と話せば、浅井さんも「中込さんとは阪神(入団)では入れ違いで直接は知りませんでしたが、飲食業界でも先輩ですし、がんばっている姿を見て励みになりました」と刺激を受けていた。
しかし、肝心の試合の方は一塁マルテの守乱などもあり、巨人が一方的にリードする展開に。通常80人ほど入る店内はコロナ禍を考慮し、半数程度に抑えられていたが、それ以上にお通夜のように静まりかえる時間帯もあった。
店内が一気に沸いたのは1―5で迎えた八回に原口の2点打で追い上げを開始したあたり。九回には巨人の守護神デラロサから中谷が適時打を放ち、マウンドから引きずり下ろすと、熱狂はピークに達した。
「これはチャンス。田口は準備してなかったでしょう」。浅井さんの解説に大きくうなずくファン。しかし、後続が断たれ、試合は4―5で敗れた。
その後は気を取り直して抽選会へ。浅井さんのサイン入りユニホームなどが当選者に贈られ、参加者全員にサインボールもプレゼント。撮影タイムに入ったころの阪神ファンは、試合に敗れたことをすっかり忘れているかのようだった。
浅井さんは最後に「みなさん、私の店にも足を運んでください」と自身が大阪・北新地で経営するバー「AZAS’」もしっかりPR。後で聞くと参加者数人がその後、二次会と称して甲子園から北新地へ流れ込んだようだ。
今回のイベントはコロナ禍で仕事の場を失ったプロ野球OBをサポートし、その結果、ファンが喜び、店側も潤うという仕掛け。次期開催は来年という考えだったが、参加者からの「もっと開催してや」という熱い要望を受け、主催者側はこのオフの”延長戦”を計画。早ければ12月初旬にも、引退したばかりの大物OBや現役選手を招いての感謝イベントを実施する予定という。プロ野球に限らず、引退した選手のセカンドキャリアの一環として、このスタイルが定着していくかもしれない。
▽炭火焼肉「伸」甲子園本店 兵庫県西宮市甲子園七番町13-7 イベントの問い合わせは「採用戦略研究所」☎06(4300)7120まで。