「落書き」に埋め尽くされた渋谷駅の光景がSNS上で話題になっている。
「落書き」が発生したのは再開発に伴い今年3月に閉店した渋谷駅の旧東急東横店通路。
この光景は9月24日の平成文化研究家の山下メロさんのSNS投稿をきっかけに広く拡散され、SNS上では怒りの声や渋谷の治安悪化を懸念する声が多数上がっているのだが……
山下メロさんのツイート
「渋谷駅ヤベーことになってる」
実はこの「落書き」、東急とクリエーティブ会社BAKERUによって企画された「#391045428(#サンキュートーヨコシブヤ)」と題するアート展。9月25日のJR玉川改札閉鎖にあわせて旧東急東横店内の歩行者通路も解体作業に入ることから、最後の名残にとアーティスト有志たちが集まり、制作したものだったのだ。
今回の「落書き」への反響について山下さんにお話をうかがってみた。
中将タカノリ(以下「中将」):この渋谷駅の光景をご覧になった経緯とご感想をお聞かせください。
山下:たまたま乗り換えの際に通りました。今までも時々通っていた場所なので変貌ぶりに驚きました。
中将:落書きは、実際のところアートプロジェクトの一環で描かれたものだったようですが、当初それには気付かれませんでしたか?
山下:はい。自分は誰かが勝手に描いたのかと思っていました。しかし、あまりに広範囲なのと、すぐに消そうとしてる感じがなかったのでよくよく見るとアートプロジェクトだという小さいポスターが貼ってあるのに気づきました。
絵に対するポスターのサイズから、最初は無断で描かれたものと思わせて、よく見るとアートプロジェクトと分かる仕掛けになっているので、「これは勘違いさせて話題作りにしようという意図だな」と思ったのです。なので、今回のツイートもその趣旨にそったものにしようと思いました。
最近話題になったキン肉マンじゃないですけど、いきなり「これは許可を得てる公式の企画のようです」とネタバレをしてしまうのはプロジェクトの意図に反する無粋な行為なのかなと。現地にいない人が勘違いして終わるのもよくないので、あえてポスターが映ってるものを1枚目に入れて、その文字を検索したら分かるようにしました。2ツイート目の最後の画像にも大きめにポスターを入れて、ネタばらしという形をとっています。
山下さんのツイート(2ツイート目)
「夜の渋谷駅がココどこ状態…」
もちろん、それでも分からずに「犯罪だ!」と引用リツイートする人もいましたが、これは現地でも、わざわざポスターの近くまで行かないと分からないことなので、乗り換えで急いで通り過ぎる人のほとんどはアートプロジェクトと思ってなかったんじゃないでしょうか。
中将:ツイートを投稿した当初、ここまで大きなリアクションがあると思われましたか?
山下:単なる報告という気持ちでしたので、ここまでツイートが拡散するとは思いませんでした。犯罪と思って怒る人や、アートだけどクオリティに苦言を呈する人など、何か言いたくなる人が多かったのか、リプライや引用RTが非常に多く寄せられました。しかし「いいね」の数もかなり多かったので、好意的に見ているサイレントマジョリティーの数を思えば、ほとんどはポジティブな反応だったと思います。
しかしネガティブな意見が多かったことについて言えば有名なバンクシーが無記名なように、アートプロジェクトと大きく打ち出さずに耳目を集めることはストリートアートの文脈上おかしくはないと思います。それが渋谷駅の東急百貨店というブランドの公式なプロジェクトとして正しかったのかどうかは当事者が判断するところなのかなと思っております。
山下メロ(やました めろ)プロフィール
平成文化研究家。80年代~バブル~90年代の庶民風俗を研究。特に日本全国の観光地の土産店や売店で売られた子ども向け雑貨みやげを「ファンシー絵みやげ」と名付け収集・研究し、各種メディアで保護を訴えている。訪問した土産店は4000店を超え、保護したファンシー絵みやげは16000種を超える。著書に『ファンシー絵みやげ大百科 忘れられたバブル時代の観光地みやげ』(イースト・プレス刊)がある。
【公式サイト】http://fancy80s.com/
【公式Twitterアカウント】 https://mobile.twitter.com/inchorin
【公式YouTubeチャンネル】 https://www.youtube.com/c/MeroTubeTV/
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意図や方向性の違いはさておき「タギング(スプレーによる落書きの一種)などのストリートアートが渋谷にあるというのは、自分が研究している平成レトロの頃、90年代後半のセンター街のようで興味深い」と語る山下さん。
9月25日のJR玉川改札閉鎖と共にアート展は幕を下ろしてしまったが、こういったカルチャーにご興味のある方はぜひ山下さんのホームページやSNSをご覧になっていただきたい。