流通アナリストの渡辺広明氏が「ビジネスパーソンの視点」から発信する「最新流通論」の今回は「お酒」がテーマ。コロナ禍によって増えた「家飲み」や、若者の飲酒が減少傾向にあること、さらには10月酒税法改正などを踏まえ、変わりゆく「お酒事情」を検証した。
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今、スーパーに行くと、第3のビールのケースにカレーのルーや食用油などのおまけがベタ付けされてお得になっていたり、小売チェーン独自のキャンペーンが行われています。10月1日の酒税法改正で、ワインや第3のビールがメーカーに課せられる税金が上がり、価格の値上げが確実なため、その駆け込み家飲み需要を取り込もうと各メーカーによる必死の攻防が勃発しているためです。
今回の改正で第3のビール1缶(350ml)当たり9.8円、ワインもボトル(750ml)当たり7.5円の税が引き上げられます。一方 ビールは1缶(350ml)当たり7円、清酒は、ビン1本(1800ml)当たり18円の税が引き下げになります。
第3のビールは、メーカーが国の規制をうまく研究し企業努力による商品開発で、家庭で気軽に飲めるビール系カテゴリーを確立し庶民の味方でしたが、残念ながらビール系の税金は今後、2026年10月までに段階的に54.25円へ一本化され、第3のビールの優位性は失われていく運命です。
メーカーにとっては、平時では売上は、ビールが業務用5〜6割・家庭用は4割。第3のビール・発泡酒も含むビール系全般では業務用2割・家庭用8割という構成でしたが、コロナ禍で家庭用の売上が伸びているため、税改正後も店頭でのキャンペーンなど売上争奪戦はさらに加熱していきそうです。
また、お酒で最も大切な「酔いたいニーズ」でもビール類はアルコール度数が5%前後であるのに対して、アルコール度数9%の高濃度チューハイが、発泡酒に近い価格で買えて、かつ飲みやすい味のため人気を博していて、ビール系のネガティブは続いています。
また、「とりあえずビール」の文化も終わりを迎えつつあり、健康を考え、あえてお酒を飲まない「ソーバーキュリアス」という言葉が定義されたりと、20代の若者は1週間でほとんど酒を飲まないのが半数近くになっていて、酒類全体もマイナスな変化が起きています。
そんな中でも、キリンは10月6日に国内初の糖質ゼロビール「キリン一番搾り糖質ゼロ」を発売し健康志向の顧客を取り込みを狙っています。酒類メーカーは難しい局面ですが、税収や酒に対する嗜好の変化に合わせて商品開発の企業努力が続けられると考えられ、国内では多様性のある酒文化が進み、さらなる顧客メリットが生まれて行く事に期待していきたいです。