自民党総裁選に立候補した菅義偉官房長官が、不妊治療に保険適用を目指す考えを述べられたというニュース、思わず「素晴らしい!」と声が出ました。不妊は「病」じゃないなど議論が分かれる所だとは思いますが、少子化対策で市町村が公費で婚活イベントを企画する昨今、出産に積極的な人たちへの援助の必要性は自分自身の体験からも感じていました。
私は50歳まで不妊治療を続けました。その年の手帳をめくってみたら、最後に妊娠の陰性判定が出た日に、自分の文字で大きく「完」と書いてありました。「やりきった」という思いもあったのだと思います。私は幸い周囲に理解して頂き迷惑もかけましたがお仕事も休ませてもらったり、旦那さんもすごく協力的で、費用も自分が働いて貯めたお金を使えたので、不妊治療をしている人の中でも恵まれていた方だったと思います。残念ながら子どもは授かれませんでしたが、同じように不妊に悩む人たちにとって、経済的な理由で断念するのは一番つらい。だからこそ保険適用への動きにはすごく大きな意味があると思うのです。
「今後制度設計をし、導入は早くて2年後」という話。今まさに不妊治療中の方からは「遅すぎる」という声もありますが、とはいえ、国民の税金を使う以上、やはり「無制限」では問題がある。2003年の調査では日本で不妊治療を受けている人は46万人以上。原因は男性と女性が半々で、妻が散々調べても不妊の原因が解らず夫に病院に行ってもらったら判明、というのもよく聞く話。40代以上では90%が望む結果を得られないというデータもあり、中には実績が下がるからと40代以上の患者を受け付けない病院もあるそう。私のように50歳まで続けようという人にまで無限に保険を適用して良いのかと、いうとかなり疑問もあり、何らかの年齢制限や回数制限も、必要な議論だと思います。時間をかけてもしっかり制度設計をして頂きたい。
私も経験がありますが、不妊治療をしている時って気持ちが後ろ向きになりがちです。例えば同じ3回でも「まだ3回ある」じゃなくて「あと3回しかできない」と思い詰めてしまう。又今の助成制度は年収に上限があり、不平等を感じる方がかなりおられると聞きました。
私が不妊治療をしていた頃は、役所の窓口で「へえー、不妊治療してるんだ」という目で見られる事もあり、それが嫌で実際には助成の手続きをためらうという人も。それが今、不妊治療に光が当たり、少子化対策とつなぎ合わせて国が動いてくれるという事は本当に嬉しいニュースです。
ただ「少子化対策」という意味では、これだけでは足りません。残念ながら女性には妊娠に向いている年齢がある。不妊治療もネットには「成功した」という話があふれていますが、実際には私のように授かれなかった人も大勢いて、深い闇に落ちふさぎ込んでしまう人もいる。その原因の多くはやはり「年齢」。不妊治療をすればみんなが授かれると思われがちですが、そんなことはない。やはり、性教育と一緒に「妊娠適齢期」についてもきちんと教育すべきだと思います。
さらに、日本では海外と違い養子に対する世間の目がまだまだ冷たいと思います。残念ながら授かれなくて、それでも子どもが欲しいと思った時の選択肢として、日本でも特別養子縁組などの養子制度を、もっと政府が率先して周知し、支援して欲しいと思います。
奈良県出身の女性映画監督、河瀬直美さんは、自身も養子として育てられたという経緯の持ち主です。そんな河瀬監督がメガホンを取った新作が、特別養子縁組をした夫婦の葛藤、そして二人をとりまく人間関係のうず、血のつながり、魂のつながりをテーマにした映画「朝が来る」。10月23日(土)公開予定です。若い人たちにはぜひ見てもらいたい、そして考えが広がって行って欲しいと願います。