かつての「花街」の風情を残す東京都新宿区の荒木町。料理店、スナック、バーなどが集まる都内でも有数の飲食店街だが、その中にある「荒木公園」が「A Lucky Park」という表記の貼り紙でもって街の入口に掲示され、SNSで話題になった。字面だけ見ると「なんで？」と思うが、「ア・ラッキー」と声に出せば「なるほど」とヒザの一つも打ちたくなる、遊び心のある「音訳」だ。では、誰がいつ、どのような目的で貼り出したのだろうか。その真相を探った。
地下鉄・四谷三丁目駅から地上に出て徒歩２分ほど、新宿通りから店舗の並ぶ車力門通りの入口右手にあるガラス窓付き掲示板の中に貼り紙はあった。矢印と共に「荒木公園 A Lucky Park」と記されている。
フミ（@nitchoque）さんが５月３０日に「どう訳したらそうなるんだよ〜」というコメントと共に画像をツイッターに投稿したところ、リツイートが１万7０００件、いいねが６万４０００件と大きな反響を呼んだ。
フミさんは当サイトの取材に「（近くの）お店に行く途中、ふと横を見たらあったので、なんだか面白いなと思って写真を撮ってツイートしました。まさか、あんなにバズるとは思わなかったのでびっくりしたんですが、バズったおかげで付いたリプで、あの貼り紙は少なくとも３年前にはあったことを知りました」と振り返った。
リプ欄には「ジョジョの荒木飛呂彦先生のスタジオが『ラッキーランドコミュニケーションズ』なのはこれと同じ発想なのかな？」というコメントも。フミさんは「荒木公園という名前と、下にある『右側が破線状になっている矢印』がアニメ版のエンディングに似ているので、ジョジョの奇妙な冒険のファンの方々が食いついたようです」と指摘。「他には『音を基に訳したのではないか。法被のことをhappy coatというので』という意見もありました」と明かした。
フミさんが向かっていた店は、掲示板の近くにあり、さまざまなアーティストの作品などを交替で展示しているバースタイルの飲食店「アートスナック番狂せ」。同店代表の公家（こうけ）智子さんは「表示に気がついたのは随分前です。初めて見た時は『ダジャレ！笑』と思いましたが、毎日の通り道なのでそれ以降は特になんとも思ってなかったし、この辺のお店の人も気がつかない人もいるだろうなぁ、と思っていたので、まさかうちのお店に遊びにきてくださった方のポストがあんなにバズっててびっくりしました」という。
ちなみに漢字の「意味」を英語に直訳すると、「荒」は強いて言えば「ラフ（Rough）」で、「木」は「ウッド（Wood）」だから「ラフウッド・パーク」。これでは全くの別物である。かといって、普通に「Araki」と書いてもネイティブな発音では「アレイキー」と読まれそう。確かに「A Lucky」の方が「荒木」に近い。「How much?→はまち」「You know me→湯飲み」みたいなもんだが、そんな語呂合わせだけでなく、「ラッキー」という言葉も景気がいい。
では、誰がいつ、どのような経緯で表示したのか。
店舗MAPと共に掲示されていたことから、地元の荒木町商店会に問い合わせた。塩見文枝会長は「この掲示板は荒木町商店会所有でございます。『荒木公園』の貼り紙は当会の当時の役員が考えたものです。2013年の春の商店会のイベントに合わせて会場案内としてつくりました」と証言。ＳＮＳでは「３年以上前」という説が出ていたか、実は７年前からあったのだ。
荒木町商店会の塩見会長は「バズるのに７年かかりました。まだまだですね」とユーモアを交えて説明し、記者が「やはり『アラキ』と『ア・ラッキー』をかけたものですか？」と問うと、「ご覧の通りです」と認めた。
当の荒木公園に足を運んだ。掲示板から徒歩３分ほど、店舗や住宅に囲まれた小さな区立公園である。公家さんは「荒木公園は特に何もない広場で、普段はのんびり、年寄りが腰を下ろしたり、サラリーマンがぼ〜としてるスペースですが、祭の時は急変。やぐらが登場し、出店もきゅうきゅうで老若男女が盆踊りをしています」と描写した。
コロナ禍の中、荒木町では各店舗が手探りしながら営業を再開している。「禍（わざわい）」転じて「ラッキー」となすか。塩見会長は「近々に古くなった掲示板を修理することになっております。『荒木公園』案内は残しておきますので、ぜひ実際に荒木町にお運びいただき、昭和の雰囲気の残る荒木町で遊んでいっていただきたいと思います」と、「A Lucky Park」表示の継続を明言した。
