コロナ禍により、家族全員が自宅で過ごすようになったAさん。Aさん夫妻には、小学校2年生の男の子と幼稚園に通う女の子がいます。家族4人が揃って朝から晩まで共にする生活は、元気盛りの子どもたちが騒々しくもとても賑やかです。
Aさんの夫の職業はシステムエンジニアです。緊急事態宣言が出されてからは在宅勤務となり、リビングの一角を仕切って仕事をするようになりました。デスクワークなので基本的には黙々と作業をしていますが、ときには職場の人たちとミーティングをする必要がありました。
そんなある日のこと、おままごとやゲームに飽きてきた子ども2人は、遊んでくれとAさんにぐずりだします。Aさんは家事でヘトヘトになっていたため、適当にごまかそうとしましたが、子どもたちはまったく納得してくれません。
少しイライラしたAさんの視界の端に、お風呂上がりに使っているシートパックが映りました。いつもは子どもたちにイタズラしないように、と言っていましたが、今なら遊ばせても良いかもと思ったのです。
そのシートパックは化粧水などの水分を含ませると膨らみ、そのまま顔に貼り付けるタイプのものです。さっそく水を含ませて子どもたちの顔に貼り付けると、2人とも大喜び。お化けだの、妖怪だの、と言いながら仲良く遊び始めました。
その様子を見てしばらくは時間が潰せそうだと、肩の力が抜けたAさん。ここのところ疲れが溜まっていたこともあり、ソファに腰をかけるとすぐにウトウトとして、そのまま眠ってしまったそうです。しばらくすると、子どもたちは顔のパックだけでは物足りなくなり、服も着替えだし、本格的に妖怪ごっこを始めました。バスタオルを頭からかぶったり、Aさんの服を着てふざけたり。特に長女は髪をポニーテールのようにまとめ、シートパックの上からマジックで眉毛を描いたり、大人の真似をして満足げでした。
「ねえ、もっとマジックない?」
Aさんが寝てしまったので、長女は父親の元へいきました。ですが、タイミング悪く夫はビデオチャットでミーティング中。仕事の話をしているさなか、急に白いパックをした子どもが現れ、画面の向こう側の社員たちは驚き、目が点になります。そして一人が呟きました。
「バ、バカ殿…!」
そうです。パックで変装した長女は、白いパックに黒い眉毛、ちょんまげ風のポニーテール、肩からかけた赤いバスタオルがまるで殿様の衣装のようで、画面を通して見ると本当にバカ殿そっくりだったのです。
夫は慌てて娘を画面の外へ追い出しました。ですがその後も、ミーティングに参加していた社員たちからは爆笑されたそうです。
「バカ殿の登場に和みました」
「志村けんが復活したのかと思った」
在宅勤務に、慣れない自粛生活。加えて、子どもが騒ぐ声などでついイライラしてしまうこともあるでしょう。そんなときに、予想もできない形で子どもが大人たちを和ませてくれることもあるようです。バカ殿エピソードはコロナ禍で緊張していた心を和らげてくれる、ほっこりとするエピソードでした。