お、なんや。お菓子の中におみくじみたいなもんが入っとるやんけ。
「ただなんとなく」…ん?
「こしぬけるほど」…んん?
「天才が生れる」……んんん??
ありがたいような、そうでもないような、とはいえやっぱりありがたいような…。
石川県には、こんなやわらかい言葉が綴られた小さな紙片を、餅粉などのほんのり甘い生地で包んだ「辻占(つじうら)」という素敵な正月菓子がある。大吉!とか小吉!といったいわゆる即物的な「おみくじ」や「占い」とは一線を画す、言葉の粋な味わいが魅力のこのお菓子。県外にはあまり流通していないが、石川県ではスーパーなどで気軽に買うことができるのだ。
石川の正月菓子「辻占」とは
辻占の大きさは、指先で摘める程度。製造元によって、種物(最中の皮)を福寿草の形に仕上げたものや、餅粉のやわらかい生地を突羽根形にしたものといった違いがあるが、いずれも中に小さく丸めた紙片が入っている。石川県民の多くは、こたつでぬくぬくしながら辻占を広げ、出てきた言葉に家族でわいわい言い合って正月のひとときを過ごすと聞く。3個選んで繋げて読み、その滑稽ぶりを笑ったり、偶然うまくできた組み合わせに感心したりするという楽しみ方もあるらしい。風流!
正月菓子として親しまれる辻占だが、「辻占の文化史」(中町泰子/2015年/ミネルヴァ書房)などによると、もともとは江戸後期に花街を中心とする盛り場で売られたのが始まりという。それが明治以降は一般の飲食店や宿屋でも茶菓子として広まり、現在のように普通の家庭にまで浸透したのは戦後になってからとみられる。
受け継がれる「郷土の伝統」
石川県南部の加賀地方では今も盛んに作られており、中町は2010年の時点で13軒の製造元を確認したという。そのうちの1軒、浜原製菓(小松市)はその後、経営者の高齢化で製造をやめることになったため、2018年に近くの長池製菓(同)が事業を引き継いだ。「辻占の文化史」にも登場している浜原製菓の創業は1913(大正2)年。当初から辻占も製造していたらしい。
長池製菓の長池正社長は「地元から伝統の火を絶やしてはいけないと思った」と力を込める。長池製菓の主力商品は煎餅だが、10月から12月頃にかけては辻占の製造に専念。紙片はひとつひとつ手作業で丸めて包んでいくのだという。
ちょっと不思議な言葉の由来は?
気になる「言葉」の由来についても訊ねてみたが、「浜原製菓さんが使っていたものを印刷会社からそのまま引き継いでいる。誰が考えたのかまでは聞いていない」と長池社長。言葉は、ことわざや愛情、出世などの「一言判断」が計80種ほどあるそうだ。事業を継承する際、パッケージのデザインは一新したが、「言葉の内容を変えることは今のところ全く考えていない」という。
一方、1849(嘉永2)年創業の諸江屋(金沢市)は、明治初期の版木を今も持つ、辻占製造では最も歴史がある店のひとつ。「きてほしい」「おまえがたより」「ひそひそはなし」などの謎めいた一言に、それぞれ呼応するような絵が添えられており、「当時の辻占が持つ、文学的で遊戯的な側面がよく理解できる」(中町)のが特徴だ。
諸江屋の公式サイト内にある「辻占福寿草の中紙の解釈について」では、「明治時代に書かれました『なぞかけ本』の文章をそのまま使わせていただいております」と紹介されているが、中町によると、実はそれも定かではないらしい。作者もやはり不明とのこと。
どうです。辻占、気になってきたでしょう。
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…え、「せくにおよばん」?「いそがぬがよろし」?
何を仰る。
「いまさらいやとは」!
「思い切ろうか」!!
「早くきめなさい」!!!
「あきらめなさい」!!!!
それでは皆さま、めいてつ・エムザでお会いしましょう。