PL学園時代、甲子園で横浜高・松坂大輔投手から5安打を放ち「松坂キラー」と呼ばれた大西宏明さん(38)は、関西独立リーグに今春から参戦する堺シュライクスの初代監督として、焼き肉店「笑ぎゅう」オーナーとの二刀流に挑戦中だ。
明るい声が飛び交うグラウンドで大西さんはノッカー役に打撃指導、投球チェックと忙しく動き回る。練習を終えて自宅で一息入れると夕方には大阪・心斎橋の店へ。接客から調理場の手伝いまで人気店を切り盛りする。
「松坂を打てる選手を育てたい」。そんな目標を掲げる大西さんは98年春の準決勝、夏の準々決勝で横浜と対戦。延長十七回の死闘も経験した。「松坂とあんな試合ができたから甲子園に出てよかった。でも、20年も前の話。選手からしたら『松坂世代』は死語ですよ」と笑う。
元々、指導者への興味はなかった。オリックス、横浜などでの9年間のプロ生活を終えて2011年に引退すると、半年後に店を開業。家族と「野球のない人生」を楽しんでいた。
手弁当で監督を引き受けたのは、新球団の代表である夏凪一仁氏がボーイズリーグ時代の同級生で、本拠地が地元の大阪・堺という縁があったから。「始まってみると選手に愛情が湧いてきて。もっと客観的にチームを見るかと思ったら、どっぷり」と自分の変化に驚く。
かつての経験から、監督として心がけるのは押しつけでなく「選手ファースト」。プロ入団時、大西さんはスイッチ打者転向を言い渡されていた。だが当時の近鉄2軍コーチ・鈴木貴久さんは右打者で勝負したいという意思を尊重し指導してくれた。
高校で5本塁打、大学で0本塁打だった打者はプロ通算27本塁打を記録。「プロでは絶対打たれへんって言われた人間が打てるようになった。みんな可能性は限りないんです」と熱く語る。
新球団の記念すべき初戦は3月31日の兵庫BS戦(花園中央公園)。自身も選手登録済みで指揮を執りつつ出場機会を探るつもりだ。直前の29日にはNPBも開幕。プロ野球ファンや試合を終えた選手たちが来店することで、こちらも繁忙期を迎える。