2026年11月3日の米中間選挙で、民主党は上下両院の多数派を奪還した。トランプ大統領にとっては、政権発足から約2年で有権者から厳しい審判を突き付けられた格好であり、残る任期の政権運営は一段と難しくなる。
この政治的変化は、米中関係にも少なからぬ影響を及ぼす。ただし、民主党の勝利を米国の対中強硬姿勢の後退と解釈するのは適切ではない。むしろ、トランプ氏個人のディール外交と、議会に根付く対中警戒との間に新たな緊張が生じる可能性が高い。
対米交渉で中国に好機?
まず、中国にとって今回の選挙結果は、対米交渉で主導権を握る機会となり得る。トランプ氏は物価高やイランとの軍事衝突への批判を受けて政治的求心力を弱めた。関税政策も有権者の不満を招いた要因の一つであり、米国内の生活コストをさらに押し上げるような対中貿易摩擦の再燃は、政権にとって政治的リスクとなる。米中間の貿易休戦が2027年1月に期限を迎えるなか、習近平政権はトランプ氏の政治的事情を見極めながら、関税引き下げや輸出規制の緩和を求める可能性がある。中国にとっては、米国との全面対立を避け、経済成長に必要な国際環境を確保することが優先課題となる。
しかし、トランプ氏の政治的弱体化が中国にとって全面的な利益になるわけではない。第二の焦点は、民主党主導の議会による対中政策への関与である。米議会では民主・共和両党の間に、中国の軍事的台頭や先端技術分野での競争に対する警戒感が広く共有されている。半導体、人工知能(AI)、量子技術、重要鉱物などをめぐる対中規制は、政権交代や議会構成の変化だけで簡単に覆るものではない。民主党は公聴会や行政監視、予算審議を通じて、トランプ政権が中国に過度な譲歩を行わないよう圧力を強めることができる。
台湾への圧力を強める展開にも警戒を
特に重要なのが台湾問題である。トランプ氏は台湾への武器売却を中国との交渉材料として利用する可能性を公然と示唆しており、約140億ドル規模の台湾向け武器売却案件も、2026年11月現在、承認が保留されたままとなっている。これに対し、議会では台湾の防衛力強化を求める声が民主・共和両党に存在する。民主党が武器売却の実施を強く求めれば、習近平政権の反発を招き、米中関係が再び緊張する可能性がある。中国がトランプ氏の政治的弱体化を利用して台湾への圧力を強める展開にも警戒が必要だ。
もっとも、米大統領は外交・安全保障政策において依然として大きな権限を持つ。議会が民主党主導になったからといって、トランプ氏の対中外交を全面的に変更できるわけではない。大統領には拒否権もあり、外交交渉の主導権も基本的にはホワイトハウスにある。したがって、今後の米中関係は、議会の対中強硬姿勢とトランプ氏の首脳間外交がせめぎ合う構図になるだろう。
日本にとって重要なのは、米中関係が一時的に安定したとしても、それを対立構造の解消と捉えないことである。中国は米国の国内政治の変化を利用しようとする一方、米国の対中警戒は党派を超えた構造的なものとなっている。日本はトランプ氏と習近平氏の個人的な関係に過度な期待を寄せることなく、台湾海峡の平和と安定、先端技術の流出防止、重要物資の供給網強靱化を進める必要がある。今回の中間選挙は、米中対立の終わりではなく、その展開を左右する米国内政治の新たな変数が加わったことを意味している。