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「もしものときに備えたい」2.5万人以上が受講 ペットの命を救う世界基準の救命トレーニング「ペットBLS検定」愛犬家・愛猫家の関心を集める

西松 宏 西松 宏

一般社団法人日本ペットBLS防災学会(代表理事・山本大樹さん)が主催する、犬猫への心肺蘇生法の民間資格「ペットBLS検定」が愛犬家、愛猫家の間で広がっている。エビデンス(科学的根拠)に基づいた世界基準の蘇生法で、オンラインでも学習、資格取得でき、年間約5000人が取得する人気資格となっている。

同学会は2022年6月、犬や猫の防災と救命についての知識を広めるために設立された。代表理事の山本大樹さんは元消防士。「犬や猫を飼う人が増え、家族同然となっているなかで、ペットの防災について考えることが必要」と、日本獣医救急集中治療学会理事長で札幌夜間動物病院の川瀬広大院長とともに同学会を立ち上げ、犬猫の心肺蘇生法を学ぶ「ペットBLS検定」を創設した。BLSとは「Basic Life Support」の略で、心肺停止や呼吸停止に対する一次救命処置を指す。

山本さんによると、犬猫が心肺停止になる理由として多いのは、呼吸器系などの病気、転落、感電、誤飲、熱中症など。地震で家具の下敷きになる、急に外に飛び出して交通事故にあう、避難所でのストレスによる突然死などのケースもあるという。最近は地震や豪雨など災害が多発していることもあり「わが子に万一のことがあったとき、対処する方法を知っておきたいと思われる方は増えており、検定への関心度は年々高まっていると感じます」と山本さんは話す。

ペットBLS検定は、米国の獣医救急集中治療学会と獣医救急集中治療専門医協会の公式協力、承認のもとで作られたCPR(心肺蘇生)ガイドライン「RECOVER」に基づいている。日本では日本獣医救急集中治療学会が窓口となって、普及活動を行ってきた。「ネットには犬猫を救命する情報があふれていますが、科学的根拠に基づいた世界基準の正しい知識を国内に広めていくことが大切だと考えています」(山本さん)

資格講習は同学会の公式サイトから申し込める。オンライン講座と、全国各地で随時開かれている講習会の2つの方法がある。申し込むと、感触や硬さを可能な限り本物の犬猫のように再現した専用器材のぬいぐるみ(犬猫どちらかを選択)が届く。オンラインの場合、座学(YouTube動画)と実践に取り組み、実技試験は自分で撮影した動画を送る。動物病院到着までに飼い主ができる心肺蘇生法の基礎が身につき、実技試験に合格すると認定証を受け取れる。

   ◇   ◇

山本さんは青森県八戸市出身。消防士として地元で勤務し、東日本大震災の発生時には、津波が迫るなかで住民の避難誘導にあたった。その後、現場で何かが起きてから動くのではなく、何かが起きる前にできることがあるのではないかと考え、防災の道に進んだ。

なかでもペット防災については、人への備えほど取り組みが進んでいないことに気づいた。特に犬猫の心肺蘇生法について、科学的根拠のある世界基準の方法を広める必要性を感じた。 

そのときに出会ったのが、米国の団体が作った心肺蘇生のガイドライン「RECOVER」だった。日本での普及を目指していた川瀬さんとともに学会を設立し、同検定の創設に至った。

一般の人だけでなく、消防職員や動物看護師、トリマーやトレーナーを目指す学生などにも教えており、これまでに資格を取得したのは約2万5800人(2026年9月末現在)という。

  ◇  ◇

9月13日、福岡市内で開かれた講習会をのぞいてみた。参加者は女性7人。参加理由を尋ねると、「老犬施設で突然死した犬を見たこともある」という栄養士の女性は「フレンチ・ブルドッグを飼っているのですが、いま12歳なので、もし何かあったときのために」と答えた。一緒に来ていた看護師の女性は「将来、保護猫カフェをやりたい。万一に備える方法を知っておきたかった」。他の参加者も全員が犬か猫を飼っており、理由は「もしものときに備えたい」だった。

 

講習では2人1組になり、ぬいぐるみに名前をつける。「いつも帰ってきたら迎えにくるのに、なぜか今日はこない。探してみると家の中で倒れていた」という場面を想定し、まずは名前を呼びかけるところから、反応と呼吸の確認の仕方、注意点、手順を教わった。

「ここで大事なポイントは、まず反応や呼吸の状態を見て、心臓マッサージをするかどうかを15秒以内で判断すること。この判断が遅れると、生存率の低下や神経状態の悪化を招く可能性があります。無反応、無呼吸を疑ったら、直ちに心肺蘇生を開始します」

続いて、心臓の位置の見つけ方と胸部圧迫の仕方、犬猫の体勢や飼い主さんのポジショニング、圧迫の深さや力加減、リズム、人工呼吸のやり方を学ぶ。専用器材のぬいぐるみを使い、「胸部圧迫30回+人工呼吸2回」を5サイクル、約2分間繰り返すトレーニングを行った。

「私たちが開発したぬいぐるみは、心臓マッサージをするときの弾力が、本物の犬猫にとても近いんです。市販のふわふわの観賞用ぬいぐるみだと誤った感触が身に付くので、おすすめできません。この2分間のサイクルを継続し、動物病院に引き継ぐまで繰り返します」(山本さん)

講習会は約2時間。胸部圧迫を続けるにはかなりの体力がいるが、参加者は全員、熱心に取り組んでいた。「わが子を助けよう、対処法を知ろうと、毎回の講習会ではみなさん、とても一生懸命です。その気持ちに応えたいとの思いで、いつもやっています」と山本さん。先に紹介した栄養士と看護師の女性も「すごく勉強になった」と話した。

  ◇  ◇

「愛する家族の命を守れるのは、いつもそばにいる飼い主さんです。もし、これをやっていたら助かったのに…という後悔をなくしたい。すぐに車を手配するなどして動物病院に着くまでの間、心臓マッサージをすることで救える命があります」と、山本さんは力を込める。

「動物看護師を目指す学生からは『ペットショップのペットが急変したとき、落ち着いて対応できた』、ドッグトレーナーからは『窒息した子がいたが、あわてずに対応できた』といった声も届いています。心肺蘇生を行っても助からない場合もありますが、少なくとも『力を尽くすことができた』と思われる方は多いです」(山本さん) 

わずか2時間で、心肺蘇生法を完全に習得するのは難しい。山本さんは「『分かる』と『できる』は、全然違います。とっさに行動できるかどうかは、継続的な練習にかかっています。動画を見直し、器材のぬいぐるみで繰り返し練習して、体に染み込ませてほしい。そして、家族や友人など身近な方にもやり方を伝えていただければ。これからもペットBLS検定を国内で広く普及させ、この方法を日本国内のスタンダードにしていきたい」

そして、こう続ける。「現在、ペットの心肺蘇生を学ぶ機会や教材には、さまざまな選択肢があります。飼い主さんには、何を学ぶのか、どのような器材で訓練するのかを、よく知った上で選んでいただきたいと考えています。大切な命を守るための教育だからこそ、私たちは『正しい教育を、正しい器材で』を大切にしています」と話した。

▽一般社団法人日本ペットBLS防災学会ホームページ
https://jspbb.or.jp/

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