進行性の難病「脊髄性筋萎縮症(SMA)」を患い、人工呼吸器を装着しながらも福祉サービスを活用して、大阪でひとり暮らしを送るウッディさん。右手の指先で綴られる重度障害者のリアルな日常はSNSを介して多くの人に届き、2026年8月5日には自伝的書籍も発売された。
彼はなぜ、地元を離れ、大阪でのひとり暮らしに踏み切ったのか。移住後の日常や長年抱えてきた「性の悩み」について詳しくうかがった。
地方の選択肢の少なさに危機を感じて移住を決意
ウッディさんは愛媛出身。子どもの頃は体調面の理由から高校卒業までの9年間、入院治療を受けながら病院近くの養護学校に通っていた。退院後は実家へ戻るも、長年離れて暮らしていた父と価値観がぶつかることが多くあった。
この状態は互いにとってよくない――。そう感じ、愛媛でのひとり暮らしを決意。慎重派のウッディさんにとっては人生をかけた挑戦だった。
父や訪問看護師、ヘルパーらと話し合いを重ね、ひとり暮らしのシミュレーションも行った後、ウッディさんは2023年3月に愛媛でのひとり暮らしを実現させる。
だが、実際に暮らしてみると、地方の過疎化によるヘルパー不足によって、やりたいことを実現させる選択肢の少なさを痛感した。自宅近くには商業施設がなく、行きたい場所やほしいものがある時には介護タクシーを頼んだり、父の力を借りたりしなければならない日々。
周囲の事情を優先し、自分のやりたいことを我慢している間にも症状は着実に進行していく。
「父にも父の人生があるので、今のうちに都会で生活の基盤を作ったほうが自分にとっても父にとってもいいのではないかと思って。愛媛から行きやすく、空気感も好きな大阪でのひとり暮らしを決断したんです」
「賃貸の壁」を乗り越えて掴んだ大阪での暮らし
父やヘルパーらはその考えを受け入れてくれ、建設的な話し合いが何度も行われた。だが、思わぬ壁が立ちはだかる。都市部である大阪は健常者の入居者が決まりやすいからか、物件探しが難航。「床が車椅子の車輪で傷つくから」という理由で断られもした。
「2ヶ月ほど決まらず、最終的に相談員さんの事業所の繋がりで物件を借りることができました」
現在は10人弱のヘルパーのサポートを受け、スマート機器を使いこなしながら大阪での暮らしを謳歌している。
「ヘルパーさん不在時の玄関の開け閉めやエアコンの調節は、スマート機器で行っています。スマート機器があったことも、ひとり暮らしができると思えた理由のひとつでした」
自伝的書籍には大阪での暮らしぶりやこれまでの半生が詳しく綴られており、ウッディさんの父のインタビューも胸を打つ。2人は普段、互いの想いをあまり語り合わない。そのため、書籍を通して初めて知った父の想いは多く、衝撃を受けたそうだ。
「腹を割って話す機会は少なくても、互いへの解像度は高かったんだと気づかされました。特に会社員を辞めた僕が何もできなくなった時期の話は、当時の心境を見透かされていたようで胸に刺さりました」
障害者専用の風俗で実感できた「ひとりの生き物」としての存在価値
障害を発信する当事者には時として、心ない声が寄せられる。だが、ウッディさんはそうした差別的な感情も「あって仕方ないもの」とフラットに受け止める。もちろん、傷つきはするが、福祉や障害者に関わったことがなければ、そうした感情を抱くこともあるだろうと、広い視野で社会を見ているのだ。
「自分を理解してほしいとは思っていません。友人でも話さないと分からないことってあるから、分かってもらえる前提で生きないようにしています」
ウッディさんは今、障害者の性に関するリアルな悩みも臆さずに発信している。それは、自力での解消が難しい自身が20年以上、苦しんできた悩みだからだ。夢精をしたかもしれないと感じた日にはヘルパーや父にオムツを変えてもらうことが気まずく、申し訳なさも感じた。
「大人になったら解決するのかなと思っていましたが、そうじゃなかった。自分で解決できる環境を作らないと…と思ったのも、ひとり暮らしを始めた理由のひとつです」
ウッディさんの場合は性欲を満たせないこと以上に、ゴールの目途がないまま性欲を抑え続けなければならないことが苦しかったそうだ。
「性欲があるのが悪いことみたいに思えてきて。抑えないと…と思うほど思考がよりそっちにいってしまい、そんな自分が嫌いになったこともありました」
そうした中で知った、障害者専門の性風俗。初めて利用した時、ウッディさんは生まれて初めて「ひとりの生き物として生きている」と思えたそうだ。
「普段の生活にはない人との触れ合いでした。自分の存在が肯定されているように感じられたし、性欲はあってはいけないものじゃないとも思えました」
福祉化は求めない 「性の悩みを抱える障害者が現状を知ってほしい」
ただ、ウッディさんは障害者の性問題を「福祉化」という視点で議論してほしいとは思っていません。
「異性に触れたい人、射精がしたい人など性欲が満たされる状態は人それぞれです。だから、福祉化するのは難しいと思いますし、社会が無理に変わろうとするよりも、こうした悩みを持つ人がいることが知られて、世間の空気感が変わったら僕は嬉しいです」
ウッディさんは性の悩みを抱える当事者に向け、「自分の性欲を悪いものだと思わないで」と語りかける。
「その悩みを理解してくれる人は、意外と多くいます。自分の暮らし方も見つめ直しながら苦しみ続けない方法を諦めずに探してほしい」
どう生きても人間は後悔する生き物。だから、僕は自分がいいと思うほうの選択肢を常に選ぶ――。体が動く時間に制限があるウッディさんから出るその言葉は重く、深い。
「多くの人と出会え、人生の転機をくれたSNSは僕にとって財産。ただ、僕の生き方を正解だと思ってほしいわけじゃない。僕は、ひとりの人間として生きているだけ。こういう生き方もあると知ってもらえたら嬉しいです」
今後は、自著をより多くの人に届けたい。日本各地に足を運び、色々な人と出会いたい。そう話し、前向きに人生を切り拓く彼の姿は、多くの人にエネルギーを与え続ける。