非関西出身の編集者に聞く
ノオト社員の大半は関西以外のご出身だそうだが、「明日のパン」というワードや企画を聞いたとき、どう受け止めたのだろうか。
関東在住の編集者Tさんは、「明日のパン文化が全くない家で育ったので、最初は状況がつかめず、ポカーンとした」と振り返る。著者とのやりとりを重ねる中で驚いたのが、関西のスーパーにいると買い物客の誰かが「明日のパン」と話す声が聞こえてくるというエピソードだったそう。
「いつも利用するスーパーでは、周囲に聞こえるような声で会話しながら買い物する人は、あまりいないからです。今度関西に行ったら、そういった生活の細部にまで耳をすませてみたいです」
千葉県出身の編集者Aさんは、「明日のパン」を、生活を未来へつなぐ小さな行為として受け止めたという。
「明日食べるものを用意するのは、明日も生活を続けていくこと。ただ、そういうと関西の方から『そんなたいそうなモンちゃうで』と言われそうな気がします。制作を通じて少しわかったようで、でもまだつかみきれない。その距離感を含めて面白いテーマでした」
また同じく千葉県出身の編集者Mさんは、関西出身でない母も「明日の朝ごはんがない」と心配し、家族にパン買ってきてと頼んでいたエピソードを思い出したそう。
「『明日のパン』というフレーズでなくとも、同じように翌朝の食事を気にする家庭は各地にあります。関西以外の方にも、きっと重なるエピソードがあるでしょう」
社内唯一の関西在住社員が気づいたこと
ノオトBOOKS編集部のKさんは、同社で唯一の大阪在住編集者。東京の社員から「明日のパンって、本当に明日食べるの?」「方言なの?」と聞かれ、「『明日のパン』の言葉は一般的ではないんだ」と衝撃を受けたそう。
「制作を進めるうちに、『明日のパン』を気にするのは一緒に暮らす相手の生活を思いやる行為でもあることに気づき、関西人ならではのコミュニケーションの形が見えてきました。今では『明日のパン』を気にする行為は、とても尊いものだと思うようになりました」
「おもろいオカン」の奥にある、やさしさを伝えたい
「明日のパン」は、その言葉の響きの可笑しさから「大阪のオカンのおもろい口調」と受け取られがちだ。しかし、宮脇さんは「本書では、決して関西のオカン=単におもしろいおばちゃんみたいな扱いをしたくなかった」と話す。
「『明日のパン、まだうちにあったかな』という言葉の裏には、『明日の朝食を用意しておかないと、家族が困るのでは』という心配があります。それは大切な人の生活を気にかけるやさしさから、自然に口をついて出る言葉なのだと思うのです」
実は本書に出てくるのは、家族との温かいエピソードばかりではない。
「親子間に複雑な印象を抱えている人や、人生に苦しみもがく人のエッセイもあります。それでもパンの味や食卓の風景、何気なくかけられた言葉を通じて日常生活のなかにある大切なものを描いてくれました」
最後に宮脇さんは、出版レーベル「ノオトBOOKS」を立ち上げた思いを語ってくれた。
「ノオトBOOKSのコンセプトは、読書の時間をプレゼントする本づくりです。本を読んでくれた関西人が、関西にゆかりのない家族や友人に『この本、読んでみて』と手渡してくれたら、最高にうれしいですね。言葉そのものを知らなくても、その奥にある気持ちは共有できるはずです」
「明日のパン」という言葉には、誰かと暮らす大切な時間とささやかな愛情が詰まっている。
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