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残業中に足場から転落 骨折した45歳会社員に総務担当「会社に迷惑かかるから健康保険で受診して」 これって労災隠しですか?【社会福祉士が解説】

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45歳、中堅メーカーの製造現場でリーダーを務める佐々木さん(仮名)は、繁忙期の残業が続く中、作業中に足場を踏み外し転落。右足骨折という重傷を負いました。病院へ運ばれる際、付き添った総務担当者から「会社に迷惑がかかるから、健康保険で受診してほしい。休業中の給料は有給休暇で対応しよう」と告げられます。貯金も少なく、今後の治療費と生活費に強い不安を感じた佐々木さんは、その言葉に従うべきか一人悩んでいました。

しかし、仕事中のけがを健康保険で受診するよう求めたり、休業を有給休暇で処理しようとしたりする対応には、法的・制度的に大きな問題がある可能性があります。実際、こうしたケースは「労災隠し」とみなされるおそれもあるのです。

どのようなケースが「労災保険」の適用になるのか?

労働者災害補償保険(労災保険)は、正社員だけでなく、パートやアルバイトを含むすべての労働者に適用される公的保険制度です。適用される災害は大きく分けて以下の3つに分類されます。

なお、令和6年11月1日から、企業等から業務委託を受けているフリーランスの方(特定フリーランス事業)についても、業種・職種を問わず労災保険に特別加入することができるようになりました。

1.業務災害(仕事中のケガ・病気)
業務遂行中かつ、業務と傷病の間に因果関係(業務起因性)が認められるもの。工場の現場業務で、機械に巻き込まれて怪我をする、医療従事者で外来業務中に新型コロナウイルスに感染した患者さんに対応したら、ウイルスに感染してしまった、などです。

2.通勤災害(通勤中の事故)
合理的な経路および方法により通勤している際の事故。「合理的な経路」とは、最短ルートである必要はなく、当日の交通事情に応じた選択であれば良いとされています。しかし、通勤とは関係ない目的で経路を外れたり、経路上で通勤とは無関係な行為(買い物や飲食)をした場合、原則としてそれ以降の移動は「通勤」とみなされません。

なお例外として、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるもの(日用品の購入、職業訓練、選挙権の行使、病院での診察など)をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合は、逸脱・中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び「通勤」として扱われます。

3.職業病(過労や環境による病気)
長時間労働による脳・心臓疾患や、後述するメンタルヘルス不調など。職業病については、厚生労働省が定めた「職業病リスト」に準じます。

労災に認定されると受けられる主な給付内容

労災が認定されると、普段、病気やケガで医療機関を受診した際に利用される、いわゆる「健康保険や国民健康保険などの公的医療保険」ではない仕組みで、治療や無収入による保障を受けることができます。

1.療養(補償)給付
労災で認定された病気や怪我にかかる治療費、手術費、薬剤費などが全額支給されます。そのため、医療機関を受診した際の自己負担額も、全くありません。

2.休業(補償)給付
労災で認定された病気やケガが原因で仕事を休業する時、休業4日目から、給付基礎日額の約80%が支給されます。これは60%の休業補償と20%の特別支給の合算であり、傷病手当よりも手厚い補償が受けられます。

3.障害(補償)給付
症状が安定し、一般的な治療を行ってもその効果が期待できなくなった状態を「治癒」とし、その治癒後にも障害が残った場合に給付されます。障害の程度が重い方から順に第1級から第14級までに区分され、第1級~第7級の場合は対象者が亡くなるまで支払われる年金として、第8級から第14級までは一時金として、一度にまとまった金額が支給されて終了となります。

メンタルヘルス不調(うつ病・適応障害)の認定基準

近年、急増しているメンタル不調も労災の対象となる場合があります。認定には厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づき、以下の3点が審査されます。

①対象疾患(うつ病、適応障害など)を発症していること。

②発症前のおおよそ6カ月前に、業務による強い心理的負荷が認められること。

③業務以外(家庭環境や他の病気やケガ)の心理的負荷が原因でないこと。

具体的には「パワハラ」「月100時間を超える時間外労働」「過酷なノルマ」などが評価対象となります。身体的なケガと異なり目に見えないため、医師の診断書に加え、勤務実態の記録(メール、タスク管理ログ、タイムカード等)が有力な証拠となります。

会社が申請拒否した場合|「直接請求」の進め方

多くの労働者が「労災は会社が手続きしてくれるもの」と誤解していますが、労災保険の給付請求権は労働者本人にあります。

会社が「うちは労災を使わない方針だ」「自己責任だ」として書類に事業主証明(押印)を拒否する場合でも、以下の手順で申請が可能です。

①所轄の労働基準監督署へ「会社が証明を拒否している」旨を伝え、相談します。

② 事業主欄を空欄のまま、拒否された理由を記した「報告書」を添えて請求書を提出します。

③労働基準監督署の署員が会社へ立ち入り調査や聞き取りを行い、事実確認が取れれば認定されます。

会社には労災事故を報告する義務(死傷病報告)があり、これを怠ることは労働安全衛生法違反(労災隠し)という犯罪行為にあたります。

「労災隠し」を疑うべきサインと対策法

労災に該当する病気やケガが発生した時、会社側が以下のような提案をしてきた場合は「労災隠し」の可能性が高いため、十分に注意が必要です。

「健康保険で治療して、窓口負担の3割は会社が負担する」

「休んでいる間は有給休暇を消化してほしい」

「労災を使うと今後の査定に響くぞ」

会社が労災申請に消極的になる背景には、労災事故の発生によって翌年度以降の労災保険料率が上がる可能性や、労働基準監督署から調査・指導を受けるリスク、企業の安全管理体制への評価が下がることへの懸念などがあります。しかし、これらはいずれも会社側の都合であり、労働者が正当な補償を受ける権利を妨げる理由にはなりません。

これらは典型的な労災隠しとみなされるおそれがあります。健康保険で仕事のケガを治療することは健康保険法上の保険給付の対象外であり、後に健康保険組合から治療費の返還を求められるリスクもあります。

また、本来、有給休暇の制度は「健康な労働者の心身の休養を目的とした法定休暇」であり、労災で補償されるべき休業補償を有給休暇に振り替えることは、刑事罰・行政処分の対象となります。毅然と「労災として処理したい」と伝えるか、速やかに労働基準監督署に相談しましょう。

自分自身の健康と生活を守るために

佐々木さんは、産業カウンセラーや社会福祉士などの専門家に相談し、労災保険の請求を決意しました。会社側は当初難色を示しましたが、労働基準監督署のアドバイスを受けて直接申請を行った結果、無事に労災認定を受けました。

労災保険は、あなたが働き続けるために国が約束した正当な権利です。会社側の顔色を伺うのではなく、自身の健康と生活を守るために、正しい知識を持って行動してください。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)
社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。 

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