兵庫県尼崎市内の一角にある戸建て住宅を1棟丸ごと借り切って、保護猫活動を行っている「オープンシェルター保護猫ふみふみ」は、子猫から老猫まで100匹近くの猫を保護している。同時に、現代社会で何となく生きづらさを抱える人が、猫の世話をしながら自分を取り戻せる場でもある。代表の西尾美香さんに、取り組みについて聞いた。
年間140匹を新しい家族のもとへ
オープンシェルター保護猫ふみふみ(以下、ふみふみ)が行っているのは、いわゆる「保護猫活動」だが、その内容は多岐にわたる。すでに保護した猫が暮らすケージを朝晩清掃し、給餌と健康チェック。多頭飼育崩壊の現場へ赴いて、保護することもある。これらの作業には現在、40~50人のボランティアスタッフが手分けして当たっているという。
保護している猫の中には、膵炎治療や酸素室治療ほか、高額な医療費がかかるFIP(猫伝染性腹膜炎)にかかっている猫もいて、決して潤沢とはいえない活動費から苦心して捻出している。
「FIPは、投薬を始めたら最低でも85日は続けないといけないので楽ではありませんが、治療しないという選択肢は、私にはないんです」
ただ保護して世話をするだけではなく、里親探しも熱心に行っている。地域内にあるホームセンターの厚意で場所を借り、譲渡会を開いて縁をつなぐ。しっかり面倒を見られる人の条件を定め、年間140匹を新しい家族のもとへ送り出しているという。
「里親詐欺」で奪われた命…犯人を追い詰めた執念と消えない悔しさ
西尾さんがこの活動を始めたのは、虐待目的で子猫を引き取る「里親詐欺」に遭った苦い経験がきっかけだった。
10年ほど前、母猫を交通事故で亡くした子猫を数匹引き取った西尾さんは、自ら里親探しを始めた。そのうちの1匹を引き取っていった男性が、後に里親詐欺と判明。里親詐欺とは、里親になると偽って猫を引き取り、転売や虐待をする行為だ。この男性は転売はせず、ただ自分のストレスを子猫に向け、虐待した挙句、殺していた。
その男性とは連絡が取れなくなっていたため、西尾さんはある作戦を立てた。里親探しを装ったワナを仕掛けてみたのだ。すると、同じ男性が応募してきた。居場所を突き止めて問い詰めると、彼は「死んだもんはしゃあない」と言い放ち、せせら笑っていたという。
この一件を警察や弁護士にも相談したが、虐待の証拠が掴めないこともあって、十分に対応できなかった。
「今思えばおかしいと気づくのですが、初めての譲渡だったので騙されてしまいました」
こんなことが許されてはいけない、無知なままでは守れないという怒りと悔しさが、西尾さんを本格的な保護猫活動へと突き動かす原動力となった。
協力してくれる仲間が増えていく中で、西尾さんはある変化に気づいた。
「猫を救うための場所が、いつしか人を救う場所になっていたんです」
それを象徴する、ある少女との出会いがある。
「人とお話しするのが苦手な、Kちゃんという中学生の女の子がいました」
Kちゃんは猫が好きで、母親に付き添われて「ふみふみ」に遊びに来るようになった。最初のうちは誰とも話をせず、ただ猫を眺めて1時間半ほど過ごして帰る。そんな日々が続いた。少しずつ掃除や猫の世話を手伝うようになり、やがて笑顔を見せることも多くなった。相変わらず誰とも話さないが、猫の様子がおかしいと感じたら、ジェスチャーで西尾さんに知らせてくれることがあった。
そのKちゃんが、職場体験の活動先に「ふみふみ」を選んだ。
1週間の活動を終えて、Kちゃんの母親から西尾さん宛に手紙が届いた。そこには、目を輝かせて通う娘の姿への喜びと、「将来、このような仕事をしてみたい」と娘が夢を語り始めたことへの驚きと感謝の言葉がつづられていたという。
「こうした子たちの育成や、社会では生きづらいと感じている人たちが働ける場所にしていきたいんです」
20代のボランティアスタッフたちが進める「20代プロジェクト」
ボランティアスタッフには老若男女さまざまな人たちがいるが、20代のスタッフを中心に取り組まれているのが「20代プロジェクト」だ。各自の得意分野を生かして、楽しみながら保護猫活動に参加できる仕組みづくりを目指す。
その内容は、大きく4つに分けられる。
ひとつは、若手作家のイラストやハンドメイド作品をチャリティーグッズ(缶バッジ、ポーチ等)化して、表現の場と支援を両立させる「アートボランティア」。
ふたつめは、ゴミ拾いを通じて地域社会の一員として環境美化に貢献し、保護猫活動の認知度を拡げようという活動。
あとのふたつは構想段階だが、地域に根ざした情報発信を行い、住民とのつながり強化を狙った「地域新聞の制作」。さらに、Tシャツなどのオリジナルグッズを販売して、その売り上げが支援に直結する仕組みもつくりたいという。
ペットを飼う人がいる限りこの活動はなくならない
最近では、野良猫を保護するより、高齢者からの引き取り相談や多頭飼育崩壊の解決が急務になっているという西尾さん。
「ペットを飼う人がいる限り、この活動はなくなりません」
今は寄付と自己負担で賄っている運営に関しても、思い描いている理想がある。
「活動に関わる人たちにお給料を出せる仕組みをつくって、持続可能な形にすることです。あわせてスポンサーを募り、地域全体で猫と人を支えていける未来をつくりたい」
猫の命をつなぐために始まった「ふみふみ」は今、孤独や不安を抱える人々にも必要な場になりつつある。単なる「猫の保護」の枠を超え、優しく力強い居場所にしていきたいと、西尾さんは今後の構想を語った。
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