個人事業主のAさんは、今年の利益が予想以上に出たことに頭を悩ませていました。理由は、このままだと所得税が跳ね上がってしまうからです。そこで思いついたのが、古くからの付き合いがある外注先のBさんへの相談でした。
Aさんは「来年お願いする予定の仕事の一部を今年の分として領収書だけ先に切ってくれないか」とBさんに頼みます。これにBさんは渋々ながら100万円分の領収書を発行してくれました。
Aさんはこれを「外注費」として経費計上することで、節税に成功したと喜んでいました。しかし1年後、Aさんのもとに税務署の調査官がやってきます。調査官の目は鋭く、架空の取引はあっけなく露呈。「反面調査」によってBさんの会社も巻き込まれます。
この後、2人はどのような罪が課せられてしまうのでしょうか。架空領収書をめぐる法的リスクについて、正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞きました。
「節税」ではなく、悪質な「脱税」
ー架空の領収書を発行・受領する行為は、法的にどのような罪になりますか?
これは単なる「経理のミス」ではなく、事実を隠蔽・捏造する極めて悪質な「脱税(所得税法違反)」に該当します。
架空の経費を積み増す行為は、国に納めるべき税金を正当な理由なく免れる行為です。特に100万円という具体的な金額をでっち上げるのは、計画的な「仮装・隠蔽」とみなされます。最近でも、架空の外注費を計上して数千万円を脱税したインフルエンサーが告発されるなど、国税当局の監視は厳しくなっています。
ー身内だけのやり取りが、なぜ税務調査でバレてしまうのでしょうか?
税務署には「反面調査」という強力な武器があるからです。調査官はAさんの帳簿に不自然な点(仕事の完了報告書がない、メールのやり取りと日付が合わないなど)を見つけると、即座に取引先であるBさんのもとへ調査に赴きます。
そこでBさんの帳簿や通帳を確認すれば、100万円の入金実態がないこと、あるいは入金があってもすぐにAさんに還流されていることなどが判明します。プロの調査官を「身内同士の口裏合わせ」で欺くのは、まず不可能だと考えてください。
ーバレた場合、どのような罰則が科されますか?
もっとも重い「重加算税」の対象となります。その額は、本来納めるべきだった税金の35〜40%。これに加えて、延滞利息にあたる「延滞税」も課されます。
また、青色申告の承認が取り消されるリスクもあります。そうなれば「65万円の特別控除」が受けられなくなるだけでなく、数年分に遡って控除を剥奪され、結果として数百万円単位の追徴課税を突きつけられるケースも珍しくありません。
ー領収書を発行しただけのBさんにも、責任は及ぶのでしょうか?
もちろんです。Bさんも「脱税の片棒を担いだ」として、共犯的な立場に置かれます。Bさん自身の税務調査が行われるきっかけになりますし、もし架空の売上を計上していなければBさんの帳簿も不自然になります。
何より恐ろしいのは、ビジネスパートナーとしての「信用」を失うことです。税務署のブラックリストに載れば、今後、Bさんの会社も定期的に厳しい調査を受けることになります。たった1度の「人助け」のつもりが、自社の首を絞める結果になるのです。
◆正木由紀(まさき・ゆき) 税理士
10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。