競馬は、多くの人々や馬たちの活躍によって成り立っています。そのなかには、表舞台では分からない活躍で支える馬もいるようです。自身も元牧場従業員である漫画家・イラストレーターの高草木こぶさんの作品『あてうま白書』は、そんな目に見えない場所で奮闘する馬たちの姿が描かれています。同作はX(旧Twitter)に投稿されると、約5.8万ものいいねを集めました。
競走馬の繁殖において『当て馬』という仕事があります。これは馬の陰部全体をおおう前貼りをはった状態で、牝馬の発情を調べるというものです。当て馬の仕事を勤める主人公・アカギファルコは競走馬を引退して10年、男としての本番経験はありませんが、今日も『プロフェッショナル童貞』として仕事をしています。
サラブレッドは日本で年間7000頭も生産されますが、優秀な成績を収めて種牡馬(繁殖を勤めるオス馬)になれるのはほんの一握りです。そのうえ優秀な種牡馬になると、1回の種付け費用が数千万円以上にもなることもあります。
もし牝馬の発情が来ていない状態で種付けをすると、大事な種牡馬がケガをしてしまう危険性があります。当て馬は、本当に牝馬が発情しているかどうか確認し、大切な種牡馬を守るという仕事なのです。アカギファルコは、先週牝馬に蹴られた痛みを我慢しつつ当て馬の仕事に当たっていました。
そんなアカギファルコの馬房に、今日も1頭の種牡馬がやってきます。超大物ルーキーの彼は「もう種付けやだー!」「こんな事をするためにボクは一番になり続けたんじゃないのに…」とアカギファルコに愚痴を言いました。
彼の名前はイスカンダル。国際的に最高の格付けであるレース(以下G1)で6勝という優秀な成績を誇る馬・パルメニオンの弟として生まれ、自身もG1で9勝という兄以上の成績を収めて引退しました。そんな圧倒的な強さから『魔王』という異名が付いているものの、アカギファルコの前ではワガママっぷり全開の様子です。
それからも連日、イスカンダルは夜中に泣きながらアカギファルコの馬房にやってきます。イスカンダルは、ずっと1回しか負けたことがないという兄に憧れてきました。兄に会ったことはありませんが、兄に負けたくないがゆえずっと1番を目指し続けたのです。
しかし種牡馬となってしまったことでレースに出る機会を失ったイスカンダルは「ボクの居場所はここじゃない」と嘆いていました。しかしアカギファルコはそんな彼を慰めるどころか「俺はこの場所を自分で勝ち取ったんだ」「ここを捨てるつもりも譲るつもりもない」と睨みます。
そしてアカギファルコは自身が種牡馬ではなく当て馬であることを、イスカンダルに打ち明けます。そして種牡馬となったサラブレッドがもっとも誇れることは『子孫を残すこと』で、レースも種牡馬としての活動も一緒だと話しました。
アカギファルコ自身も、当て馬が本当にやりたい仕事かと問われたら、心からはそうだとは言えません。しかし自分の活躍によってイスカンダルのような名馬が産まれると、「歴史の一端を担ってる」と思うときがあるようです。
「お前はこの場所で負けを重ねるつもりか?」と言われたイスカンダルは、「証明する!ここでも1番になれるって」と種牡馬としての決意を新たにします。それからイスカンダルは、意欲的に種牡馬活動に励むようになりました。
ある日アカギファルコは、イスカンダルから「どうして当て馬になったの?」と聞かれます。アカギファルコは現役時代G2レースで勝ったことがきっかけで当て馬となりました。そしてそのレースこそが、イスカンダルの兄・パルメニオンが唯一負けたレースだったのです。
アカギファルコはそのことを「内緒だ」とイスカンダルに伝えず、もうひとつの仕事である新人の人間への練習へと向かいました。
読者からは「競馬のロマンが胸熱すぎる…」「アカギファルコやイスカンダルのモデルはいるのかな」など、活発な議論が行われています。そこで、作者の高草木こぶさんに話を聞きました。
今作の登場馬のモデルは…います!
―同作を描くにあたって特に気を付けた部分やこだわった表現などあれば教えてください
サラブレッドという動物のリアルさと、馬が喋るというファンタジー要素を組み込むためのデフォルメ表現とを組み合わせられるように意識しました。
自分が携わった馬はもちろん喋りませんでしたし、馬の感情表現方法は人間と一緒ではないですが、牧場で馬と過ごす中で「今、馬はこんな気持ちかもしれない」と思える瞬間が私にはあったので、その瞬間を漫画に落とし込んで読者の皆さんにもわかりやすく「喋っている」ように描こうと心掛けました。
―読者からは、登場馬のモデルに関しての議論が活発におこなわれていました。実際にモデルとなった競走馬はいるのでしょうか
モデルは…います!キャラクターを考える時に、「もしあの馬がこうだったら…」と競馬好きとしてはどうしても考えてしまって…。でも、それは特定の1頭というわけではありません。
読者の皆さんも、『あてうま白書』のキャラクターから連想してくれた馬がそれぞれにいたのではないでしょうか?馬たち1頭1頭にドラマがあるように、競馬を好きなひとりひとりにも思い出の馬がいるかと思います。
私の中で抱いた馬への想像を、漫画として沢山の方に読んでいただけたことによって、「あの馬っぽい」「こんな馬もいたよね」という風に馬たちが思い出されてくれたことが、とても嬉しいです。
―高草木さんは同作以外にも、馬を中心にした漫画を描いているのでしょうか?
はい、その通りです。現在マグコミにて、パラダイス農家先生原作の『ウマの言葉は理解りませんだから静かにしてください!』という馬と喋れる女子中学生の主人公が奮闘する競馬漫画を連載しています。1巻発売中、2巻は4月に発売となります!
とても個性的な馬たちが沢山喋る漫画で、毎話馬の作画が楽しくて仕方ないです。沢山の関係者様のご協力により、2巻収録分の種付け回には実際の種牡馬(ゴールドシップ)や当て馬(マイネルミラノ)も登場します。こちらもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
<高草木こぶさん関連情報>
▽X(旧Twitter)
https://x.com/kobujime_55
『ウマの言葉は理解りませんだから静かにしてください!』
▽マグコミ
https://magcomi.com/episode/2550912965470917527
▽第1巻(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4800016525
▽第2巻(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4800017386