ベースもドラムも、トランペットもシンセサイザーも、すべてを一人で奏で、世界一になったアーティストがいる。
自らが発する音を重ね、環境音とともに構成する独自の楽曲に魅せられたファンは、国内外に広がり、SNSのフォロワーは計50万人超。彼が生まれ育った町の人口をはるかに上回った。
世界で活躍するそんな若者が、古里の観光大使に就任した。むしろ「地元に貢献したい」と願っていたという。
丸いメガネにおかっぱ頭。コミカルなキャラクターが印象的な弱冠25歳の足跡と、「地元愛」を探る。
もう少し詳しく言うと、彼は楽器は使わない。鳴らすのは、口とのどと鼻から出る音だけ。ヒューマンビートボックスと呼ばれるジャンルで、インターネットやライブで楽曲を発信しているのがSOーSO(ソーソー)さんだ。
SOーSOさんがヒューマンビートボックスに出会ったのは15歳の時。ユーチューブから流れる動画のとりこになり、まねを始めると「どんどんハマった」。技術を磨いて各地の大会にも参加。実力を高め、2019年にはビートボックスの世界大会「Grand Beatbox Battle」で日本人としては初のトップ4入り。その歩みはとどまることを知らず、2021年と2023年の大会で、仲間とともに世界一に輝いた。
出演しているユーチューブの動画の1本は、再生回数が2200万回に達しているほかDJや音楽プロデューサーの一面もあり、2023年には人気アイドルグループ「Hey!Say!JUMP」にも曲を提供するなど、多方面で活躍している。
そんなSOーSOさんは、大阪府高槻市で生まれ育ち、西大冠小学校などを経て、大阪音楽大学へ進んだ。出会った仲間と自宅で作成した動画で世界大会の予選を突破するなど、高槻市では現在の活動の礎を作る時間を過ごした。
お気に入りの場所は、阪急高槻市駅近くにあり、甲子園球場5個分の広さがある安満遺跡公園。「めちゃめちゃ広くて、歩いていて気持ちがいい。自分の家で曲を作っている時に行き詰まったら、あの公園へ週に3回は夜に散歩した」
深夜や早朝に公園内を歩きながらアイデアを膨らませる中、実は自身の曲「Error Sound(エラーサウンド)」の中には、公園で聞こえた音声を録音し、紛れ込ませている。公園内は「おしゃれな建物と、自然が良い感じにハイブリッドしている」と表現する。
キリシタン大名として知られる高山右近が城主を務めた高槻城跡地にある高槻城公園では、仲間たちとビートボックスの練習に明け暮れた。あとは「ご飯がおいしい。今は東京で暮らしているけれど、本当にレベルが高い」。人気店のラーメンや甘味どころが出すカレー風味のカツ煮込みがお気に入り。足しげく通った国道沿いのボウリング場など、数々の思い出を口にすると止まらない。
高槻市では、2日間で10万人近くが訪れる音楽イベント「高槻ジャズストリート」が毎年ゴールデンウイークに開かれる。友人が参加しているのを知ったSOーSOさんは「音楽の分野でも魅力的な町。僕の活動で何か還元できることがあればと考えていた」。その意向を知った高槻市観光協会がオファー。観光大使就任が決まった。
就任式は7月14日に高槻市役所で開かれた。SOーSOさんは、トレードマークの丸眼鏡をかけ、関係者の前でヒューマンビートボックスも披露。委嘱状を手に笑顔を見せた。「就任できたことを光栄に思い、僕の故郷で大好きな街のためにできることを全力でしていきたい」
高槻市にとっても期待は大きい。高槻市観光協会の白石純一・代表理事は「力強い協力者を得られた。SNSなどの高い発信力で、地域の魅力を伝えることへの好循環が生まれたら」とし、濱田剛史市長も「高槻をどんどん盛り上げてほしい」と話す。
「ヤバT」「アイマス」も観光大使に
そんな高槻市をPRする「たかつき観光大使」は、多彩な人たちが名を連ねている。
「ウルフルズ」のギタリストを務めたウルフルケイスケさんや、京都府宇治市出身のこやまたくやさんがボーカル兼ギターを務めるバンド「ヤバイTシャツ屋さん」のメンバー、ありぼぼさんら高槻市出身のアーティストがほかに就任している。
そしてスマホゲーム「アイドルマスター」の登場キャラ、高槻やよいもその一人。高槻やよいは、キャラクター名が縁となり、飲食チェーン店「やよい軒」が高槻市内に構える店舗は、ファンの聖地となった。そんなつながりから2022年に観光大使に選ばれている。
高槻やよい以来となる3年ぶりの新大使となったSOーSOさんは「僕でよければぜひ一緒に何かやりたい」とコラボにも意欲を示す。
高槻市民おなじみの「あの歌」を
観光大使として最初の仕事は、高槻市民に親しまれている民謡「高槻音頭」の「SO―SO Remix」だ。
高槻音頭は、地元で半世紀以上続く「高槻まつり」で毎年流され、約2千人が歌に合わせて盆踊りをする。昨年は10万7千人が訪れるなど高槻市の夏の風物詩で、会場で流れる「高槻えじゃないかそじゃないか」のフレーズとともに流れるメロディーは、市民の心に深く刻まれている。
もちろんSOーSOさんにとっても「幼少期から聞いていて、メロディーは今も覚えている耳なじみのある曲」。リミックスでは、そこにSOーSOさんが発するドラムやベースの音を重ねた。子どもから高齢者まで広く受け入れてもらえるように、原曲のメロディーは大切にしながら次第に「ビルドアップする」。つまり「後半は、ちょっと好き勝手やらしてもらってる」と笑う。
「野望」もある。「高槻まつりの中で、味変的な感じで、スパイスとして僕のリミックスが使われることがあったら、すごいうれしい。自分のライブでも流したい」。今年のまつり初日となる8月2日には「SO―SO Remix」のデジタル配信も行うという。
就任式当日は、関係者に終始笑顔を振りまいていたSOーSOさん。彼の古里への愛は、どうやらリップサービスではないようだ。その日の夜、自身のSNSに「たかつき観光大使」の肩書を早速加えて、こう記した。
「本気で高槻市を盛り上げていきます!」