一見きらびやかに見えるアパレル業界も、内側を見ると他の職業と同様に地道な努力で成り立っているようです。漫画家・ぼのこさんがX(旧Twitter)で投稿している『アパレる』では、店員たちの奮闘や日常のトラブルがリアルに描かれています。
ある日、主人公・桜木春子がお客様からの注文商品を管理していると、見覚えのない商品が見つかります。数日前に来店したフワさんというお客様の注文ですが、届いたのがピンク色の服だったことに春子は強い違和感がありました。実はフワさんは春子が以前接客したお客様で、「絶対買うならラベンダー色だよね!」と春子に語っていたのです。
その後、フワさんの注文を受けた新人社員のトビ山さんに尋ねると、彼女は慌てながら「たしかその色で伺ったはず…」と話します。
しかし、実はトビ山は、この商品について他の色が存在していたことを知らず「私のミスだよね?!どうにかして誤魔化せないかな~」と責任を回避しようと考えを巡らせるのでした。
どうにかその場を逃げ出そうとするトビ山でしたが、この場に店長が現れ、「注文を受けたときの状況を聞かせてくれる?」と呼び止められ、この出来事はトラブルとして対応されることになります。
トビ山は自分の責任になってしまうことを恐れ、「そうだ!お客様のせいにしちゃえばいい!」と考え、フワさんが自分に見せる画像を間違えてしまったのだと語ります。
そしてもし注文が実際に間違っていた時のために、他店からラベンダー色の商品を取り寄せることに。その際、配送業者に移動を任せると時間がかかってしまうため、トビ山が商品を直接取りに行くことになります。
自分が商品を取りに行かされたことへの反感から、トビ山は他店のスタッフに横柄な態度を取ります。春子はこの一連の出来事でのトビ山の態度に憤りを感じるものの、感情が先に出てしまうため何も言えないでいると、店長がトビ山に話をするのでした。
店長から「あなた…この仕事に向いてないんじゃないかしら?」「この仕事に正面から向き合えていない」と図星をつかれたトビ山は言葉を失います。どんな仕事も本気で取り組まなければ、つまらないものに感じてしまうのです。だからこそ「目の前のことにしっかり向き合いなさい」と店長は諭します。
店長に諭された日の帰り道、退職代行を使ってすぐに仕事を辞めてしまおうと考えるトビ山でした。しかし店長の言葉が心に残り、退職代行を使わずに自ら退職手続きを進め、引き継ぎをこなして約1カ月後に店を去っていきます。他のスタッフからは「最後の方は意外とちゃんとしてた」「引き継ぎもしっかりしてた」との声も聞かれました。
成長の速度は人それぞれ。歩幅は違うけれど、確かにトビ山も『成長』していたのです。
アパレル業界のリアルな内側を描く『アパレる』の作者・ぼのこさんに同作をつくったきっかけを聞きました。
「大変さ」だけではなく等身大の悩みや努力を見て欲しい
―『アパレる』を描く上で意識していることはありますか?
アパレルの世界は華やかなイメージを持たれやすい一方で、実際には接客や在庫調整、売上管理といった地道な積み重ねが欠かせません。作品を描く際には、そうした現実をただ「大変さ」として描くのではなく、現場で働く人たちの等身大の悩みや努力を通して、読んでくださる方に共感や発見が生まれるよう意識しています。
―トビ山さんのモデルとなった人物やご自身の体験を反映した部分はありますか?
トビ山さんに限らず、同作に登場するキャラクターは、私がこれまでに出会った同僚や後輩、お客様…そして私自身など実際の人たちの姿を重ねて描いています。トビ山さんについても特定の一人をモデルにしているわけではありませんが、過去に出会った“要領がよく”、“帰属意識の低い”いわゆる今風な社員をモデルとして描きました。
―「目の前のことにしっかり目を向けなさい」との言葉に込めた思いや、作品全体を通して伝えたいメッセージを。
最近は、昔ほど仕事に全力を注がない、いわゆる「熱量の低い働き方」を選ぶ人が増えているようにも感じます。ただ、それは決して悪いことではなく、自分に合った働き方を選ぶことも大切だと思っています。一方、店長をしていた頃には、何事も冷めた目で「無駄だ」と切り捨ててしまうスタッフにも出会いました。彼女はトビ山さんのように頭が良く要領もいい人でしたが、経験する前から「わかったつもり」になってしまうところがあり、少し惜しいことだと感じていました。
だからこそ、今回のこのセリフには「全力で向き合ってみることこそが、自分の心を豊かにする」という思いを込めています。たとえ無駄に見えることでも挑戦してみることで視野が広がり、日々の仕事もより充実していくのではないかと考えています。
―読者へメッセージを願いします。
いつも『アパレる』をご愛読いただいている皆さま、本当にありがとうございます。この記事をきっかけに初めて作品を知ってくださった方にも、こうして触れていただけたことを大変うれしく思います。
本作では主人公・春子だけでなく、個性豊かなキャラクターたちが等身大の姿で成長していく様子を描いています。成長や人間関係の悩みといったテーマは、アパレル経験の有無にかかわらず、多くの方に共感していただける普遍的なものだと考えています。漫画として楽しんでいただくことはもちろん、日常生活の小さな気づきや学びにもつながればと願っております。これからもぜひお楽しみいただければ幸いです。
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