Aさんは夫と子ども3人の5人家族で暮らしています。ある日、子どものリクエストに応えて夕食に餃子を作りました。子どもたちは食べ盛りなので多めに用意していましたが、食卓に出すと次から次へと夫が食べてしまいます。
すべて焼き上がった段階で「もう食べれない」と言い、夫は満足している様子です。Aさんが食卓を見ると、1人当たり4、5個食べられるかどうかという数しか餃子は残っていませんでした。子どもの分を気にせず餃子を食べた夫に怒りを覚えたAさんは、「子どもたちの分は?なんで自分だけ好きなだけ食べてるの?」と聞きます。すると夫は「全部自分の分かと思った」と返事をするだけで悪びれる様子はありません。
なぜ夫は、子どもや妻のことを考えずに夕食のおかずを食い尽くそうとするのでしょうか。カップルセラピストの石田真央さんに話を聞きました。
食い尽くす原因の大元はそれぞれの食卓文化の違い
ー夫がおかずを食い尽くしてしまうのはなぜでしょうか?
「食べ尽くす」と一言で表すと「子どものことを考えてくれていない」だとか、「周りのことを見れていない」だとか個人の問題点が浮上しがちですが、紐解いていくとそれは彼自身の『食卓の文化』が原因といえます。彼にとって「家族との食事の時間を親としてどんな風に過ごすべきか」という食卓の文化が、Aさんと大きく違っているのです。その夫婦間の落差が「夫の食べ尽くす行為の発生とそれに不満を感じる妻」という状況を生みます。
きょうだいの分がどれくらいか、親の分がどれくらいか、自分が食べるのはどれくらいか…そういった点に注意を向ける習慣が彼には必要なかったのかもしれません。反対に、Aさんはそういった周囲に目を向ける習慣が幼い頃から必要だったのかもしれません。
ー食い尽くし系と呼ばれる人を見ると、女性より男性に多い印象です。何か理由があるのでしょうか?
男性に多いのは、古くからの日本の性役割分業の認識(女性が食事を作り、男性がそれを食べるといった固定概念)が影響しているのかもしれません。
また、子育て世帯の女性によくあるのは、外食をする際に母親は子どもでも食べられるものを自分のご飯として注文する一方で、男性は自分だけが食べられるものを注文している…といった話です。この点でも、やはり女性の方が食事の際に「食べる役割に没頭しない」傾向がありますし、子どものことを気にかける習慣があると思います。これからの時代は、女性だけでなく男性も育児に参加することが当たり前になってきますし、このような男女差は少しずつ解消されてくると思われます。
ー平等に食べられるようにするために、どう対策をすればいいでしょうか
まず、この場合は彼からAさんや子どもに一言「ごめんね」と伝えることが対策としては大切でしょう。故意ではなかったとしても、リクエストするほど餃子を楽しみにしていた子どもたちの気持ちと、リクエストに応えるために一生懸命食事を準備していたAさんの気持ちを、彼に責任を持ってケアしていただくことが大切です。気持ちのケアまでやって初めて「次からは気を付けよう」と思えるものです。
また、食卓での役割を新たに担ってもらうことも有効です。食事は単に食べる役割と食事を作る役割だけではなく「他の人に食事を取り分ける」経験だったり、「皆がそろって食事できるように準備する」経験だったり、「料理が温かいうちに子どもに食べさせる」経験だったり、その場にいる家族の役割をさまざまな側面から学ぶ場です。
彼には思い切って「自分が子どもたちのリクエストに沿って食事を作る」経験をしてもらってもいいかもしれませんし、反対にAさんには「自分が好きなものを好きなだけマイペースに食べる」経験をしてもらっても良いと思います。単純な方法ですが、役割を逆転してみると、パートナーや自分の感覚、お互いの視点が理解でき、新しい気づきが得られるのでお勧めです。
◆石田真央(いしだ まお)臨床心理士・公認心理師
カップルセラピー専門機関「COBEYA」カップルセラピスト。家族療法の専門家として、夫婦・カップル間の悩み、子どもや大人の精神疾患や発達障害、問題行動など、幅広く相談を取り扱ってきた。現在は自治体の「パパママ教室」講師として、産後の夫婦のメンタルケアについても発信。