アイドルのコンサート、ファンミーティング、ドラマやSNSでの発信を翻訳・通訳なしで「分かりたい」という声は高まるばかり。若い世代に人気と言われる韓国語ですが、実際はどうなのでしょうか? 大学での韓国語学習について専門家、関西外国語大学の担当者と学生に取材しました。
韓国語に興味がある10代は、約2人に1人?
無料語学アプリDuolingoの調査(※1)によると、語学学習を行っていないものの、何か言語を学んでみたいと思っている人のうち、10代の44.8%、20代の35.3%、30代の27.7%が「韓国語に興味がある」と回答。そして、語学学習をしている人のうち、10代の27.9%、20代の31.1%が韓国語を学んでいることが明らかになっています。
しかも、韓国語を「楽しそうだから」という娯楽目的で学習(※2)。英語を学び始める動機が、「学力アップ・試験対策」「人々との交流」「キャリアアップ」といった学業や職業的な機会の向上のためである理由と比べると、モチベーションが全く異なるようです。
大学で、第2外国語といえばフランス語、中国語、ドイツ語が主流でしたが、2021年12月に発表された『韓国語教育実情調査』(※3)によると、2020年度4年制大学795校中、教養科目や専攻での韓国語教育の実施校は453校。かなり多くの大学で韓国語を学べる環境に。
この調査の実施代表であり、90年代前半から大学での韓国語教育に携わってきた長谷川由起子さん(元・九州産業大学教授、元・朝鮮語教育学会会長)に大学での韓国語学習者の様子を伺いました。
大学入学前に韓国語学習に触れている学生が増加
――韓国語を学ぶ大学生の増減や傾向は?
初級(ハングルの読み書きができ、日常的な会話ができる)の学生に韓国語学習の動機を尋ねると、多くはK-POPや韓国ドラマをきっかけの一つに上げますが、それを第一の動機として挙げる学生は半数ぐらいで、この15年ぐらい学習者の数は大きく増減せず安定しているように思います。
ただ、中・上級と上がるにつれK-POP、韓ドラのファンが多くを占め、かつ学生のレベルが格段に上がってきています。SNSやネット環境の充実で韓国語とのカジュアルな触れ合いが増えたことや、語学アプリや韓国在住の韓国人にSNSで直接韓国語を学ぶシステムが利用しやすくなってきたことで、それらを利用する学習者の実力が突出しているように思います。
――レベルの高い人が、増えているのですね。
今でも初級学習者の多くは「韓国旅行で使える程度に学びたい」という動機を挙げますが、「韓国人とため口でしゃべりたい」という動機が少数派とはいえ確実に増えています。
なお、韓国語受講者数の増減については客観的なデータはありませんが「韓国で政権が交代して日韓関係が改善されたことで受講者数が増えたようだ」という話は聞いたことがあります。
――語学を学ぶ目的も変わってきているのですね。
ここ10年ぐらいで小中学校の頃からK-POP、韓ドラ、K-ファッションに浸っているという人が目立つようになっており、大学で初めて習う人との格差が広がっています。
コロナ前には一部にK-POPダンスにはまっているという学生がいましたが、ここ最近は韓国のコスメに興味を持つ学生が目立ちます。韓国で就職したいという人も、以前は極たまにしかいなかったのが、最近はちょくちょく見かけます。
――音楽やコスメといった韓国カルチャーが若年層世代に大きく影響を与えているのだなと感じます。
韓国語はいまや“大学の授業でほぼ全員が初めて学ぶ”という時代ではなくなりました。韓国語学習に強い動機づけがある学生ほど、授業の内容は既に知っていることである場合が多いのです。
一方で、おそらくクラスの半数以上は初学者であり、受講目的は単位を取ることにあると思います。単位取得が目的であることは悪いことでもなんでもなく、学びを得ることで単位を取得するのが大学での外国語教育の本来の姿です。
ーー初心者クラス内で、差が開いているのですね。
レベル別、目的別クラスが準備されていればいいのですが、そうではない大学(或いは高校)が大半ではないかと思います。独学で多くを知り、韓国語に頻繁に触れている学生にとっては、授業がさほど面白いと感じられないかもしれません。けれども、知っていると思っている事柄も、別の角度から眺められる、もしかしたら知らなかった事柄が含まれているかもしれないと観察するように受講することをお勧めしたいです。
教師の側も、初習者と既習者の両方に対応する必要があるので大変なのですが、いろいろと工夫している先生も多いので、学習者の皆さんも些細なことでも自分から積極的に学び取りにいってほしいと思います。