犬猫たちの笑顔を守りたい!
その思いを掲げて『一般社団法人 せとうち保護犬猫の里』が設立されたのは2020年2月。賛助会員や支援者からの寄付のほか、岡山県瀬戸内市にある施設で完全貸し切り型のドッグラン(3面)を運営し、トリミングサービスやセルフシャンプー設備の提供、さらにはフードやオモチャなど物品販売によって運営費を賄っています。ボランティアさんたちの“持ち出し”もあるようですが…。
『せとうちドッグパーク』と名付けられたこの施設は、保護犬・猫の常設譲渡会場にもなっています。
「活動を始めた当初は、預かりボランティアさん宅でお世話してもらい、月1回程度、譲渡会に参加していました。でも、それでは子犬や子猫の成長に追いつかない。生後2か月で譲渡会に参加した子が、そのときに決まらなければ次は生後3か月になってしまいます。常設の譲渡会場があれば、決めかねたご家族がまたすぐ会いに来てくれるかもしれませんし、一度の譲渡会で衝動的に決められるよりむしろ安心。施設があったほうがいいと考えて団体を設立したんです」(楠理代代表)
施設にいる保護犬・猫とはいつでも“お見合い”できますし、ボランティアさん宅にいる子を連れて来てもらうことも可能。毎週土日に開催される譲渡会には、『せとうち保護犬猫の里』以外にも個人・団体問わず保護活動をしている人たちが参加できるので、より多くの保護犬・猫との出会いが待っています。
「施設を作って住所を公開すると“持ち込み”や“置き去り”が懸念されましたが、ドッグランがあって常に人の目があるからか、そういったことはなく、一方でご相談は増えました。相談していただけるのは良いことで、私たちにできることがあれば保護に向かったり、アドバイスさせていただきます」(楠代表)
飼い主の事情で飼育放棄された犬猫や、何らかの理由で行政施設に収容された犬猫たち、難しいと言われる成犬の野良犬も自分たちで捕獲・保護しており、譲渡が進まなければ救える命も救えなくなってしまいます。そういう意味で、やはり譲渡会場の役割を果たす施設の存在は大きく、また“人の輪”も広がってきたと言います。
「保護犬・猫を迎えてくれたご家族の中には、スタッフと一緒に大変な野良犬の捕獲に協力してくれる方もいますし、ご寄付も増えました。運営は大変ですが、やはり施設を作ってよかったと思っています。2年前からはここで猫の一斉不妊去勢手術もしているんですよ」(楠代表)
一日40頭の猫を不妊去勢手術
取材当日、『せとうちドッグパーク』には兵庫県姫路市にある猫の不妊去勢手術専門病院『スペイクリニック姫路』から獣医師1名と術前処置などを担当する医療スタッフ2名が訪れ、一日で40頭の猫の手術を行っていました。
手術の対象となるのは保護された猫と、繁殖を防ぐためTNR(T=Trap/捕獲し、N=Neuter/不妊去勢手術を施し、R=Return/元の場所に戻す)が必要な野良猫たち。月1~2回程度の開催で、いつも多くの希望者が集まるそうです。
「手術できる月齢前の子猫を譲渡することもありますが、時期が来たら手術してくださいとお願いしていても、なかなかしてくれないケースもあります。安全な譲渡につなげるにはこちらで手術したほうがいいのですが、全頭となると費用もかさむ。その点、専門病院のスペイクリニック姫路は一般の動物病院よりも低料金なので、とても助かっています」(楠代表)
日本では生後6か月を過ぎなければ手術をしない獣医師も多いそうですが、猫は生後4~5か月で妊娠する可能性があるため、スペイクリニック姫路の野村芽衣獣医師は海外の臨床データなどから安全性を担保した上で、6か月齢未満の幼齢猫に対する手術を推奨。もちろん、しっかりとしたスキルを身に着け、幼齢猫にも負担が少ない短時間の手術を実施しています。メス猫の手術を見学させてもらいましたが、開腹部からの出血はなく、わずか7分で終了しました。
「オスならもっと短時間で終わります。ケガをしている猫は同時に処置を行うので、その場合はもう少し掛かりますが、それでもできるだけ短く。麻酔時間は短いに越したことありませんからね。皮内縫合(ひないほうごう)と言って時間がたてば溶ける糸を使って皮膚の中で縫合するので、抜糸の必要もありません」(野村獣医師)
犬も猫も保護して終わりではありません。心と体をケアして新しい家族を見つけること、無用な繁殖を防ぐために不妊去勢手術を行うこと、譲渡後のサポートも必要ですし、費用の捻出も……ゴールはないのです。それでも「犬猫たちの笑顔を守るために」楠さんたちは今日も活動を続けます。
◇せとうちドッグパークのホームページ
https://www.dogcat-hogo.com/
◇スペイクリニック姫路のホームページ
https://sakuralienspay.conohawing.com/