JR京都駅(京都市下京区)から徒歩2分の場所に、浮輪付きの自動販売機がある。売り物ではなく、緊急時に使うためのものだが、一帯はホテルやオフィスが立ち並ぶ街中。管理する男性に設置理由を聞くと、背景には海への深い愛情があった。
自販機は、八条通を越えるとすぐに見える。水やコーヒーなどが並ぶ自販機の隣に小窓付きの箱があり、「救命浮環(うきわ) 中にあります」の文字が目立つ。内部にはオレンジ色の浮輪が確かにある。
設置したのは「京都府水難救済会」(京都府舞鶴市)。漁師やダイバーで構成され、水難事故発生時に、漂流した船や遭難者の捜索・救助を行うボランティア団体だ。自販機の売り上げの一部は同会に寄付され、救助機材の購入費や訓練・啓発の資金に充てられている。
府内に15台ある同会の自販機は、ほとんどが日本海沿岸部に置かれ、京都市内では、京都駅が目と鼻の先にあるこの1台のみ。ただ、水難事故が起きる可能性がある鴨川でも1キロ近く離れている。同会初代会長の電力事業会社社長、吉本幸男さん(79)も「ここで浮輪を使うことはない」と苦笑する。
この自販機は、吉本さんが経営する会社の敷地内に5年前に設けた。観光客や通勤・通学客が行き交う格好の場所に位置し、多くの利用と「救済会の活動を知ってもらうことを期待した」と語る。
実際に関心を寄せて足を止める人がいるほか、交流サイト(SNS)でも「珍しい自販機」として紹介されている。吉本さんは「水難事故の防止や救助活動の充実につながれば」と利用を呼びかける。