「助けて…」
ーーどんなタイミングでまめたろうくんの様子が普段と違うと気づかれたのですか?
「残業中は猫や見かけない人が通ると吠えるのですが、この日はあまりにも激しく吠え続けたため、ご近所迷惑になるので走って玄関に行きました。普段なら、私が家の周りを確認すれば鳴き止むのですが、この日は興奮して鳴き止まず、家の前が道路なのですが、飛び跳ねてそちらに行こうとしました。すると、まめたろうが吠えている方向からガシャガシャン!と、ガラスか陶器が割れるような音がしたのですが、例のおじいちゃんの家は一軒奥に入っており、うちからは何も見えず…。
しかしどうもおじいちゃんの家の方を見て吠えているので、飼い主が1人でそ~っと見に行ったところ、おじいちゃんちの玄関のガラスの引き戸が割れていて、ガラスの破片にまみれて血だらけのおじいちゃんが尻もちをついて壁にもたれていました…。おじいちゃんはおばあちゃんと2人暮らしなのですが、おばあちゃんは目が不自由で、小さな声で『助けて下さい…』と言っていました。『救急車を呼びますね』と告げて携帯を取りに家に戻り、電話をしながらおじいちゃんの元に急ぐと、隣家の方も駆けつけてくれました」
飼い主も初めて見た「愛犬の賢さ」
ーーまめたろうくんは「おじいちゃん」と仲良しなのですか?
「特に仲良しではありませんが、散歩の際、なかなか玄関から歩き出さないまめたろうを見て、ゴミ出しなどで外に出たおじいちゃんがよく、『大変だね』とニコニコしながら声をかけてくれます。なので、まめたろうはおじいちゃんをご近所の人だと認識しているようで、普段は吠えません」
ーーやはり、おじいちゃんの異変を察した、ということでしょうか。
「今回、救急車の到着からおじいちゃんが搬送されるまでに30分以上かかったと思うのですが、いつもなら、知らない人や知らない車に吠えるまめたろうが、救急車にも救急隊員の方々に対しても一切吠えず騒がず、玄関でおとなしく伏せて待っていました。助けに来てくれた人たちだ!とわかったのでしょうか…。飼い主も初めて見た賢い一面でした」
犬が「鳴く」のは何かを伝えようとしてるから
ーー犬の鳴き声はトラブルになることも多いですが、周囲の異変を知らせている場合もあるんですね。
「実は以前、飼い主が倒れたら助けてくれるかを知りたくて、2度ほど倒れた演技をしたことがあります(笑)。何の反応もなかったので、うちの犬は無反応タイプだと思っていたのですが、本当に飼い主が倒れたら助けてくれるかもしれませんね。
まめたろうは飼い主の言うことをほぼ理解してくれているように感じます。でも私の方は、犬が伝えようとしていることの一体どれくらいを理解できてるのかなあ、と思います。自分の都合の良いように受け取ってるかもしれません…。犬が人に何かを伝える時の手段は、『吠える』か『噛む』かしかないと聞きます。
まめたろうもなかなか寝てくれず、キューキュー鳴き続ける夜があり、どうして欲しいのかわからず、泣きたくなることもあります…。老犬になればもっとそんな場面が増えると思います。人間に一生懸命伝えようとしてくれているということを忘れずに、これからも犬と向き合っていきたいと思います」
◇ ◇
犬が人類と暮らし始めた今から1万1千年以上前。寒い時は寄り添って温め合い、狩猟の相棒として活躍し、番犬として危険を知らせた犬たちのおかげで、人間は生き延びられたという説がある。
住宅密集地では、「犬の鳴き声」はトラブルのもとになることも多い。だが、今回のまめたろうくんのように、「異変」を人間に伝えようとしている場合があることを忘れないでいたいものだ。