TV出演相次ぐ、謎のシンガー「五美ひろえ」 歌とトークで目指すは「ポイ捨てゼロ」

陰山 篤志 陰山 篤志

 「ポイ捨てしないで」という願いを歌に乗せ、京都府南丹市や京都市などでステージに立つ正体不明のシンガー・五美(ごみ)ひろえさん。2023年には明石家さんまさんのテレビ番組にも出演するなど、知名度をぐっと高めつつある。五美さんは「なんだか、『啓発おばさん』みたいになってますけど」と笑いつつ、「世界のごみを減らしたい」とマイクを握る手に力を込める。

 「嫁とけんかして、『出てったるわ』と。ドアをバーンと開けて、そーっと閉めて」。東山区の岡崎庵で4月中旬に開かれたマルシェ。吉本総合芸能学院(NSC)の14期生だったといううわさもある五美さんの軽妙なトークに会場が沸く。「ごみ」に数字を当てると53のため、「永遠の53歳」をうたっている。

 金髪にドレス、耳には空き缶のアクセサリー。「こんな詐欺みたいな格好してますけど」と言いながら、子どもたちに大人気の「特殊詐欺撲滅ソング」を披露する。あっけらかんとしたメロディーに、重大な社会問題となっている特殊詐欺への問題意識を込める。

 人気バンドDEENのヒット曲を挟んで、代名詞の「捨てないで~綺麗(きれい)な町を観(み)たいから~」へ。恋愛とポイ捨て防止の啓発という二つの意味を重ねた詞を、歌謡曲調のメロディーに乗せて届けた。

 歌うきっかけは6年前。南丹市美山町のきれいな自然の中で過ごしていると、近くにいた男性がタバコを捨てた。「ごみ拾えや」と内心は憤りつつも、やんわり注意した。「『ポイ捨てしないでね』ということをうまく伝えられたら」という思いがわき、歌で伝えようと考えたという。五美さんは普段、船井郡衛生管理組合(南丹市)でごみの収集業務に励んでいるともまことしやかにささやかれており、ごみ問題にはかねて関心が高かったのかもしれない。

 歌い始めて以来、丹波や大阪府高槻市などで年間50回ほどのステージに立つ。精力的な活動ぶりが毎日放送の目にとまり、23年秋には人気番組「明石家電視台」で紹介された。NHKでも特集され、取り組みに込めた思いがじわじわと広がっていると実感する。五美さんは「東京の教員の方から、学校でステージをしてほしいと言われたことがある。SNSで『毎日ごみ拾いをしています』というメッセージも来た。ありがたい」と喜ぶ。

 23年以降、京都市でも何度もステージに立つ。普段からしばしば桂川(大堰川)や海などでごみを拾い、公演後もドレス姿のままで拾うこともあるという五美さんは「大人の姿を子どもは見ている。大人が行動すると子どもも動く。みんなでごみ問題に意識を持ってほしいし、その輪を広げていきたい」と話す。

 五美さんの口癖は「トント~ン」。トントン拍子で上へ行こうといった思いがこもる。トークに何度も使うフレーズにはなんとも言えないおかしみがあり、「子どもたちがよくまねしてくれる」と五美さんは笑う。トントンには、「対等」という意味もある。上から目線ではなく、同じ目線に立ちながら、「ポイ捨てをしないようにしよう」というメッセージを楽しく愉快に伝えていくつもりだ。

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