1匹飼いの雌鳩から産まれて話題となっていた「奇跡のヒナ」が23日夜、天国へ旅立った。幼い頃から室内で育て、交尾をせずに産んだ卵が孵化したことから、親鳩は「鳩界のマリア様」と呼ばれている。ヒナは4月10日に誕生したばかりで、2週間の短い命。母鳩が育児する姿がSNS上で注目を集めていた矢先で、悼む声が相次いでいる。
世界一愛された鳩のヒナ
飼い主は奈良県在住の男性(40)で、X名・沙弥行徳さん(@yukiho112)。親鳩はジュズカケバトと呼ばれる種類で、4歳くらい。名前は「ちゃる」だ。2020年にペットとして迎え、エアコンのきいた室内で育ててきた。卵は2月28日と3月25日に1個ずつ卵を産み、うち1つが4月10日に割れてヒナが姿を現した。「唯一無二」との意味を取った「むに」と名付けた。
多方面のニュースでも取り上げられ、一躍人気の鳩の母子に。「ピジョンミルク」と呼ばれる乳状のものを体内で作って口移しでヒナに与えるなど、懸命に育児に取り組んでいた。最近ではよちよち歩きも様になり、羽も伸び鳩らしさが増した。4月23日の朝は、むには母鳩を追いかけてちょっかいを出し、元気に見えた。しかし夜7時前、男性が仕事から帰宅すると、動かなくなっていた。
「お湯で温めてマッサージして人工呼吸もしましたが、ダメでした。生まれが特殊なので毎朝毎晩、生きているか不安で仕方なくて、毎日元気な姿を見られるのが幸せでした。最期くらい看取ってあげたかったのですが…」と男性。冷たくなったむには、口元が少し開いて笑っているように見えたという。
SNSに鳩の動画を投稿すると、毎日1万いいね以上の反響があった。「間違いなく世界一愛された鳩のヒナだったと思います。心の中にむにを生かしてやってください」と話す。
極めて珍しい「単為生殖」
千葉県にある公益財団法人「山階鳥類研究所」の小川博所長は「動物は本来、雌と雄が交尾をして繁殖しますが、魚類や鳥類の一部では『単為生殖』と言って、雌だけで子どもが産める種類もあります。ただ鳩では極めて極めて珍しいと思います」と説明していた。