2月23日(金)に封切られたマ・ドンソク主演最新作「犯罪都市 NO WAY OUT」。今作の二人のヴィラン(悪党)のひとり、日本からの刺客・リキ役を演じた青木崇高に、作品そして撮影の裏話を聞いた。
――出演のオファーはいつ届いたのすか?
青木:正式に僕で行くと決まったのが2022年3月で、そこから準備に入りました。僕が演じたリキは日本刀を使うという設定だったので、以前出演させていただいた映画「るろうに剣心」でお世話になった殺陣のチームに相談して、改めて動きなどを教えてもらいました。あと、自分がイメージしたリキっていうのが映画「仁義なき戦い 広島死闘篇」で千葉真一さんが演じた大友勝利だったんです。なので、それにリキを近づけていきたいと監督に提案したりしましたね。撮影はその年の8月から1カ月くらいでした。だからその期間は、毎日とにかくいろんなことを経験できて、ただただ最高で濃厚な時間でした。
――最初に思い描いていたリキと、撮影に入り演じてみたリキはいかがでしたか?
青木:韓国の撮影は現場で結構変わることが多いというのを事前に聞いていたので覚悟はしていたんですが、自分なりのリキに近づけていきながらその都度、監督やマ(ドンソク)さんと作り上げていきました。特に日本刀に使い慣れている部分を出すために、片手はポケットに手を突っ込みながら蹴りとの合わせ技で挑みました。見た目に関しては、韓国ではあまり髭を伸ばしているキャラがいなかったので、あえて伸ばしたり、ピアスをしたりと自分なりに工夫をしてみました。そんな感じで挑んだ撮影ですけど、やはり現場では急な変更が多々あって、ついていくのに必死でしたね。
――変更された場面で印象的なシーンは?
青木:ヤクザの親分に依頼された僕が、ある男を探しに韓国の組事務所に乗り込み、廊下を突き進んでいく場面ですね。
――青木さんのある意味“出”のシーンでもあり最初の見せ場でもあるところです。
青木:部屋に入り、狭い15mほどの廊下を進みながら日本刀でのアクションシーンが繰り広げられるんですけど、前もって練習していたアクションも、現場でやってるうちに変更しようかってことになって、しかもその変更したアクションシーンは15分後に撮影するぞ!みたいなノリで(笑)。とはいえ、いいものを作るための変更ですからみんな全力で取り組むわけで、僕だけちょっと待ってくださいなんて言ってられない。ましてやリキの初登場シーンですし。結果、最初から最後までアドレナリンが出っぱなし状態で、2日かけて撮影しました。でも、逆にこういうのを楽しみたかったっていう自分もいるんですよ。
ーーその場面をあらためて振り返って。
青木:その場面を経験して違うなぁって思ったのは、刀に対する意識でしたね。僕らが日本刀を持つことって、ある種、刀を通して精神性を見い出すって意味があると思うんですよ。それと様式美。そこを踏まえての刀使いを意識して、日本でも練習していましたけど、韓国では刀はやっぱり武器なんですね。だから最初、刃先をずるずると引きづりながら歩くってあったんですけど、それをすると刃先が傷んでしまうというのを説明して、変更してもらったりしたんですが、殺陣も武器として扱うように演出されたりして非常に新鮮でした。リアルさとケレンのバランスと言うんでしょうか、そこはやってて面白かったです。ケレンの部分でいうと、日本では一戦終えた後、血のついた日本刀を懐紙で拭いたりするじゃないですか、あれをやりたくて提案したらOKが出て、組事務所の机に置いてあった領収書で拭いてます。注意深く見てくださったら嬉しいですけど、まぁそれが領収書ってのは多分、見てもわかんないと思いますが(笑)。
――プロデューサーも務めている主演のマ・ドンソクさんとの共演はいかがでしたか?
青木:「困ったことがあったら何でも言ってくれ、全部サポートするからって」って言われましたね。その言葉で安心して演じることができました。マさんは、若い時からいろいろと苦労されてきた方なので、昔から苦楽を共にしてきた仲間たちをすごく大切にしてらっしゃって、食事の時もプロデューサー、監督含めみんな一緒ですし、そんな時にも満遍なく話しかけて気にかけくれるんですよ。そういう部分はみんなわかってて常に仲間意識がある感じでした。
ーー俳優マ・ドンソクさんについて。
青木:マさんはとにかく“間”がいいんです。映画を見ていただけたらわかると思うんですが、ハードな場面も多いけれど、それと同時に笑える場面もバランスよく散りばめられていて、緊張と緩和が絶妙なんです。ラブホテルでのマさんと同僚たちとのやりとりの場面があるんですが、バックに流すBGMにしても何がぴったりハマるかいろいろ試して曲を選んだりと、笑いの部分でも手を抜かないし、絶対、日本のお笑いとかも好きだと思います。
あと、僕は1カ月の撮影でしたけど、マさんに「僕、明日で撮影が終わりなんですよ」って言ったら「ちょっと待っとけ」って、マさんは撮影があったにも関わらず、急遽、もう最後だからとみんなを誘って高級焼肉店に連れて行ってくれて、「飲んでもいいけど、みんなは撮影があるから2杯までだぞ!」って囲んでくれました。最初から最後まで気遣いの人でした。
――韓国の映画業界で驚いたことはありますか?
青木:マさんはここ数年、積極的に若い世代と仕事して、後進を育てるために動いてらっしゃっいます。60歳くらいまで映画に出たら、製作者として裏方に回りたいという計画を話してらして、日本でそういうスタンスの方ってあまりいないので、違うなぁって感じました。それと、韓国では映画に投資するのが当たり前なので、時折り、投資家の方が現場にも来られるんですよ。で、普通にご挨拶する時間みたいなのが設けられる、僕はそんなことをしたことがなかったのでかなりびっくりしましたね。
ーー映画製作もビジネスなんですね。
青木:事前に投資家など関係者を集めてブラインド試写というのをするんですが、韓国映画に関する過去20年間のデータを元に、評価5点を満点として、3.8点がある程度観客が入るだろうというボーダーラインになっていて、3.7点以下だと3.8点以上になるまで編集し直すんですよ。それを超えない限り上映しないそうで。投資家もビジネスですからそこはすごくシビアなんですよね。だから監督のプレッシャーも相当なもんです。1作目の「犯罪都市」では助監督で、2作目の「犯罪都市 THE ROUNDUP」で監督を務めたイ・サンヨンさんは僕と同い年なんですけど、やはり前作を越えなければいけないですから、かなりプレッシャーだったと思います。けど、今作もすでに韓国では興行収入100億円を超えて、ありがたいことに高評価もいただいており、そんな作品に携われたのは本当にうれしいです。マ・ドンソクさんはじめ、もう一人のヴィランであるイ・ジュニクさんや、國村隼さんなどとにかくそれぞれのキャラクターがとても魅力的なので最後まで楽しんでいただけると思いますのでぜひ映画館で見ていただきたいですね。
ーー映画のポスターがザ・関西ですね。
青木:僕が八尾出身ということで関西限定でメインのポスターを作ってくださったんです。コピーは「ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたろか!」。映画の中ではもちろんそんなセリフ言うてませんが。でもリキ、言いそうでしょ(笑)。
青木崇高(あおき・むねたか)
1980年、大阪府八尾市出身。2002年「映画「マッスルヒート」で俳優デビュー。NHK朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」でヒロインの相手役で注目される。
他に「るろうに剣心」シリーズ、「ゴジラ-1.0」、「99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE」、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」ほか
「犯罪都市 NO WAY OUT」公開中
https://hanzaitoshi3.com/