あの子、痴漢に遭っているのでは?←自信がなくても助けられます「これ良いなあ!」「真似させてもらいます」

太田 浩子 太田 浩子

 電車の中で、うつむく女性のやけに近くに立つ男性がいて「もしかしたら痴漢では?」と思っても確証が持てないときがあります。そんなときに使える言葉がSNSで注目されました。

 学生のころ、
「あなた顔色良くないですよ、乗り物酔いですか?」と声をかけてくれたスーツの女性がいて、私のことを誰か見てるんだと解ったからなのか被害がおさまったことがあった。

 こうポストしたのは「ただのアラサー(@TDN30tokyo)」さんです。ただのアラサーさんはその体験以降、「痴漢されてますか?」と言いづらくても「顔色良くないですよ、どうかなさいましたか?」と言うと決めてると言います。

 この投稿に、痴漢は許さないと思いつつも声かけはよほど確証が持てないと難しいと思っていた人たちから「自分も真似させてもらいます」「これ良いなあ! 通勤電車で隣の女性の後ろを死守する男性の会社員がいて、どうにか女性に声かけしたかったのに方法が思いつかなかった」「声かけるのも勇気いるよね」「これなら誰でもできる。まずは被害者を助けないと」「もし勘違いでもいけるもんね。痴漢撲滅!!」などと、次回は声がかけられそうというコメントが寄せられています。

 ほかに、知っている人のように「久しぶり〜!」と話しかけるというものや、鞄を間に入れたり、「そっちは狭いからこっちにおいで」などと声をかけたりする方法も集まりました。周囲の人の行動をきっかけに周りの人がちょっと顔をあげたり注目が集まったりするだけで、痴漢加害者は逃げていくことが多いようです。

 「多くの方から『なるほど』『そういう声かけ方法があるのか』の反応が多かったので、やっぱり方法がわからないから動けなかっただけで、助けたいと思っている方々は沢山いるんだ、と前向きな気持ちになりました」とただのアラサーさん。実際に、女性に限らず男性も痴漢被害者を助けたいと思っている方は多くいると感じたと話します。

「私は痴漢行為を憎んでいて、痴漢が一切なくなる世の中にしたいと強く思っています。そんな私でも、『勘違いだったら失礼だもんな…』とか『自分の声掛けで加害者を怒らせて危険な体験をするのは嫌だ』という不安から、介入をためらうのもよくわかりますし、男性の『いきなり犯罪者に決めつけられるかもしれない』恐怖にも共感するので(両手をあげて乗車している男性も多いですし)、痴漢の疑いがある場面に遭遇してもいきなり『痴漢だ!』という言葉は言えないかもしれません」

「でも、被害にあってそうな方に『どうかなさいましたか?』は、100%思いやりの言葉なので、混雑した電車内をピリッとさせず、私にも実践しやすいものだと感じています。あいさつに万引き防止効果があるように、微力でも痴漢行為撲滅への一歩になると考えています。まだ痴漢被害を疑う場面に遭遇したことがなく声を掛けたことはありませんが、通勤通学の時間に乗る時はなるべく学生服の女の子などの様子を気にかけるようにしています」(ただのアラサーさん)

 声をかけてもらった当時、痴漢行為がおさまったので「ありがとうございます、大丈夫です」と返事をしてその場は終わったのだそう。もしも被害を口に出せれば加害者を捕まえる流れになったかもしれないと、今でも思い返すことがありますが、そのときは触られなくなってよかった「助かった」という安堵の方が大きかったと振り返ります。

 ただのアラサーさんの投稿は「痴漢抑止活動センター(@scbaction)」の「痴漢行為をやめさせた周囲の人の行動」を引用する形で投稿されました。同センターは、第三者介入(#アクティブバイスタンダー)として「声をあげてくれた」「加害者と引き離してくれた」「加害者に注意してくれた」の3つの方法を挙げています。

※アクティブ・バイスタンダーとは、痴漢行為などがおきたとき(おきようとしているとき)に、第三者が被害を軽減するために行動することです

 一般社団法人痴漢抑止活動センターの代表理事・松永弥生さんは、ただのアラサーさんの投稿を見て「まず、ただのアラサーさんが学生の頃にこうやって助けてもらったというのがとてもよかったなと思いました。この声かけは、性別や年齢に関係なくいろいろな方が使える声かけだと思います。また、投稿に自分の時はこんな声かけをしてもらったという事例もたくさん集まったので、みんなで使いこなす方法を考える機会になったことを嬉しく思いました」と話します。

 「どうかなさいましたか?」の声かけは、痴漢をやめさせることができても、痴漢を捕まえることはできないというコメントもあります。ですが「被害をなるべく小さくする、被害者を守ることが最優先でいいと思います。周りの乗客と協力して加害者を捕まえることができるのであればそうしたらいいのではないか」と松永さん。

「いきなり痴漢だと決めつけて加害者に向かっていくとなるとハードルも高くなりますし、加害者が逆上したりとか、開き直ったりとかしてくるような声かけは、被害にあっている子も気まずい思いをすると思います。痴漢されている子の中には、恥ずかしくて声をあげられない子は当然いるわけで、いきなり痴漢しているだろうという言い方をしたら被害者の子はいたたまれない気持ちになっちゃうかもしれませんよね」

「アクティブ・バイスタンダーには、証拠を残すというのも大事な要素としてあります。もし本当に痴漢していると確信が持てるようなら写真や動画で記録を残して、それを駅員さんや警察にきちんと届けることが役に立つと思います。もちろんSNSにアップしちゃダメですよ。被害者を助けてあげて、周りの乗客と協力して加害者を取り押さえることができたときに、すっとぼけたり言い訳するような加害者に動かぬ証拠として動画を残すことが大切です」

「あとは、痴漢をしているとはっきりしたら、車内のSOSボタンを押して欲しいです。SOSボタンを押して車掌さんに状況を伝えると、次の駅に着いたときに痴漢を逃さないようにそこのドアを開けないという方法をとってくれる鉄道会社もあります。SOSボタンを押すと電車が止まる鉄道会社もありますが、それは痴漢が悪いので、痴漢がいたらボタンを押して車掌さんに連絡してもらいたいです」

 SOSボタンの対応は鉄道各社で異なりますが、どの鉄道会社も痴漢被害や迷惑行為を見かけたら押すことをすすめています。

 JR西日本は「車内非常ボタン(SOSボタン)を扱われた場合、非常停止して、車内通話で状況をお伺いいたします。一部の古い車両では車内通話ができないものもございますので、その場合は現地で直接状況をお伺いいたします。痴漢を確認されたらボタンを押していただいて問題ありません。その後の対応としては、警察へ通報し、駅等で警察や当社社員が保護させていただきます。なお、通報者のお客様に対しても警察が事情をお伺いする場合があるかと思います。駅や車内で、痴漢や盗撮の被害に遭われた方や見た方は弊社社員や警察までお知らせください」と回答しています。

■痴漢抑止活動センターでは、痴漢抑止バッジを身につけることで痴漢を未然に防ぐ活動をおこなっています。痴漢抑止バッジを無料配布中。継続のためのサポーターも募集中です。痴漢抑制バッジ配布サイト https://scbaction.ec-cube.shop

■痴漢被害実態把握調査(令和5年、東京都生活文化スポーツ局) https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/tomin_anzen/chian/mijikanahanzai/chikanbokumetsu/R5chikantyosa.html

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