2024年1月1日に起きた最大震度7の能登半島地震。木造住宅が密集する地域では大きな揺れによる家屋の倒壊が相次ぎ、生き埋めになって亡くなる人たちも多数いました。地震国と呼ばれる日本。被害の大きさを目の当たりにした私たちが、地震が起きた際にとっさにすべき行動とは何かを、前編でご紹介しました。
後編では今回の能登半島地震はどんなものだったのか。絵本『おおじしん、さがして、はしって、まもるんだ:子どもの身をまもるための本』の著者で知られ、阪神淡路、能登の地震などを25年以上研究している防災対策に詳しい、清永奈穂さんに聞きました。
3年前から続く能登地震、コロナ禍…地域での避難訓練ができなかった
──今回の能登半島地震は、これまでの地震の研究からどう思いましたか?
「高齢化が著しい、しかも半島という地域での、最大震度7度という大地震。そして何度も繰り返し襲う大きな余震があり、1年で一番寒さが厳しい季節で、3年前から続く幾度にも及ぶ大地震による家屋や道路・トンネルなどインフラへの大小さまざまな損壊による倒壊や寸断…そして大火災など、前例のない非常に厳しい現実を突きつける大災害だと感じました。
被害は建物の倒壊だけでなく、寒さ、寸断、津波、火災と多岐にわたったほか、感染症などの関連死も心配です。従前よりいわれていた『この一本の道路が寸断されたら誰もその地域にたどり着けず、住民が取り残され、被害は想像するのも恐ろしい』という不安がまさに現実になってしまった、と思っています。
昨年(2023年)5月に震度6強の地震が起きた石川県珠洲市では、被害に遭った地域とそうでない地域の差がかなりあり、被害は一部の地域に止まっていました。私が5月10日にお伺いしたところ(珠洲市正院町、宝立町、熊谷町)と、7月10日にお伺いしたところ(同市真浦町、大谷町・大谷小中学校)では、同じ市内でも家々が崩壊したところ、全く損壊がなかったところとさまざまで、7月に訪れた地域はほとんど被災していない、といってもよい状態でした。真浦町や大谷町は、大きな揺れがあっても、一見、家屋や道路に大きな被害もみられず、被害がなかった方々は他の地域に助けに行ったりしながら『この辺はこんなに大変なんだ』と驚いていました。
ただ、昨年の被害が激しかった正院町などでは『やっと昨年(2022年)の地震の時に壊れた家を直したばっかりだったのに』『このガラス、去年(2022年)直したばかりだったんですよ』と当時ダメージを受けながらも、これまでの被害から少しずつ立ち直っていたところでした。何度も繰り返される揺れに対して、なんとか立ち上がろうと一生懸命生きている方にとって、今年のお正月に起きた地震は計り知れないショックを与え、もう一度立ち上がろうという気力を失わせてしまっているのではと、とても心配で…私もつらいです」
──3年前から続いている地震で心が疲れ切っている方も多いかと思います。今回珠洲市では、大きな揺れによる家屋の倒壊(生き埋め)が原因で命を落とした方々が昨年5月の地震の時よりも多かったとか。
「そうですね。一昨年から続く大きな揺れにより『地震に慣れてしまっているかも』という方が少なからずいらっしゃいました。とはいえ、私がお伺いした珠洲市では、昨年の地震が直接の原因で亡くなった方がお一人(2023年5月10日時点)。しかも脚立にのって屋根の修理をしようとしていた、その脚立が倒れて亡くなった、とのことだったので、倒壊した家の中での圧死などではありませんでした。また倒壊した家でも、高さ50センチのテーブルの下に潜り込んで助かり、無傷で脱出できた方もいたりして、地震が起きても何とか皆さんご無事でした。
その一方で家屋だけではなく、続く地震によりダメージを受けていたトンネルはこのままで大丈夫なのかと、当時から不安に思っていた方もいたり。このほか『県や市主催の避難訓練はあっても、地区ごとの避難訓練をしていないのでしないといけない。でも高齢者が多いのでどうしようか。それに、まだ生活再建の途中で訓練をしようとはなかなか言い出せない』といったご相談も住民の方からありました。
そこで『もう少し生活が落ち着いてから、訓練に関して地区に提案しようと思っています』と、7月の時にはおっしゃっていましたが…結局、経済活動なども忙しくなり、それどころではなかったと思います。また新型コロナウイルス感染で世の中が翻弄されている間、地域で避難訓練などができなかったことも今回の震災時の連携に大きな影響があったと感じます」
石川県珠洲市の被災者「トンネルが崖崩れで通行できず、孤立状態」
──昨年も調査や安全教室で能登に二回ほど足を運んでいるとのこと。安全教室を開いた大谷小中学校は避難所になっていて、孤立している状況だそうですね…現地のお知り合いの方々と連絡を取り合っているとのこと。
「大谷小中学校の保護者関係者Aさん、Bさんなどと元旦から連絡を取り合っています。Aさんからは1日の時点で『家族も周囲も無事です。これまで経験していない状況ですが、最善を尽くしていきます』とのご連絡がありました。Bさんからは2日の時点で『私の真浦町の状況です。建物の倒壊などありましたが全員無事でした。珠洲方面と輪島方面へ行く両サイドのトンネルが崖崩れで通行できません。孤立状態です。外浦海岸の他集落も同じく孤立状態。昨日、自衛隊ヘリで真浦町の皆さんはほぼ輪島市の輪島中学校に避難しました。町内には私を含む4世帯8名残留しています』とのことでした」
──現在(1月9日時点)の状況は?
「Bさんによると、私が安全教室を行った大谷小中の校長先生と連絡が取れて小中の子どもたち、先生方全員無事が確認でき安心しました。真浦町は、依然トンネル通行はできず、でも自衛隊の方が現地に入り、物資が届くようになったそうです。ただいまだに断水、電気も不通が続いているとか。再び大きい余震がくればさらに孤立化してしまう、と危惧しています。今、2次避難先についてお仲間と相談していらっしゃるそうで、輪島中学校に避難している方もほぼ2次避難先の目処がたったとのこと。Bさんも、いったん金沢に避難しました。少し休んで、また真浦に帰ってくるとのことです。今の時点で、引き続き必要な物資は、ガソリン(緊急)や水、ストーブ(緊急)、食糧(緊急)、ランタン。日々変わっていく状況です」
【清永奈穂さん・プロフィール】
株式会社ステップ総合研究所長、特定非営利活動法人体験型安全教育支援機構代表理事、日本女子大学学術研究員、博士(教育学)。少年非行やいじめ、子どもが被害に遭う犯罪事件なども研究。警察庁持続可能な安全安心まちづくり検討委員会委員、内閣府「子ども若者育成支援推進のための有識者会議」委員等歴任。現在、こども家庭庁こども家庭審議会基本政策部会臨時委員。主な著書は『犯罪からの子どもの安全を科学する』(共著・ミネルヴァ書房2012)、『犯罪や地震から子どもの命を守る!』(小学館2013)、『いやです、だめです、いきません 親が教える子どもを守る安全教育』(単著・岩崎書店2021)、『あぶないときは いやです、だめです、いきません 子どもの身をまもるための本』(単著、岩崎書店2022)、『おおじしん さがして、はしって、まもるんだ』(単著、岩崎書店2023)、『おうちでヒヤッ でない、あけない、のぼらない』(単著、岩崎書店2023)他。