「お相撲さんを探しています」力士俳優に届いた怪しいDMに返信→条件は5週間拘束「詳細は明かせません」→ハリウッド行きのチケットだった!

石井 隼人 石井 隼人

「数奇な人生」とは、元力士・田代良徳(47)のためにある言葉かもしれない。大相撲引退後の彼の歩みをたどると、あながちそれは大げさな言い方ではないとすら思えてくる。

2007年の大相撲引退後、インド映画や中国映画に出演する機会を得て、映画『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(9月22日公開)でついにハリウッドデビューを果たした。引退当初はスーパーの店長だった男が、今ではキアヌ・リーブスや真田広之らハリウッドスターと共演する世界的なSUMO actorに。ハリウッド行きの切符をどうつかんだのか?それは怪しすぎる一通のDMから始まった。

お相撲さん探しの謎すぎDM

スーパーの店長の傍ら、観光客や外国メディア相手に相撲モデルとしての活動を行っていた田代。ボリウッドスターのサルマン・カーンとインドのCMで共演して以降は、SUMO actorとして国際的活動を本格化させていた。そんな田代のSNSにDMが届いた。「ヨーロッパ圏内にいるお相撲さんを探しています」。差出人はキャスティングスタッフを名乗るフランス人女性だった。

田代は当時を思い起こす。

「あれは確か2020年の年末くらい。ドイツでとある映画の撮影のためにヨーロッパ圏内にいるお相撲さんを探している、という非常に抽象的な連絡でした。しかも詳細は明かせないが5週間拘束の仕事だと。…怪しすぎますよね?でもヨーロッパにお相撲さんなどいませんから『日本から僕が行きましょうか?』と返信しました」

謎めいたDM。それがまさか田代をハリウッド映画へ導いてくれる夢のチケットだったとは。

フランス人女性とやり取りを重ねていく過程で頻繁に登場したのが、『JW4』なるワード。「一体何だろう?と調べた結果、キアヌ・リーブス主演の『ジョン・ウィック』の新作らしいとわかった。ええ!?と。僕のハリウッドデビューは連想ゲームのような形で始まりました」

ハリウッドスターのまさかの姿

2022年、ドイツで稽古がスタート。初日からサプライズの連続だった。何も聞かされぬままトレーニング場へ。アクション練習をしている人たちの一番奥から濡れ髪・髭面の猫背なおじさんが入ってきた。手にはプロテイン入りのシェイカーとブロッコリーが入ったタッパーを持って。

気になった田代がその男性を注視していると、「胴着を着た瞬間に背筋がピンと伸びて…。主演のキアヌ・リーブスさんでした!その瞬間、もう鳥肌ですよ」。まさか過ぎるファーストコンタクトだった。

約3週間に及んだアクション稽古。稽古場にはキアヌに(英国を拠点に活動する日本人アーティストの)リナ・サワヤマ、真田広之らメインキャストが居並んだ。「その横で自分も一緒にアクション練習。まさに異空間。これが現実のことだとは受け入れることが出来ず、もう一人の自分が空から俯瞰してその状況を見ているかのようなシュールな感覚に襲われました」。

サプライズはまだ終わらない。「この映画のアクションはスタントマンに頼らないガチです。キアヌさんや真田さんはリアルに暴漢に襲われても勝つと思います。それほど強いし動きもすさまじい。お二人の練習量は半端じゃなく、何度倒れても立ち上がって『アゲイン!』と叫んでバトル練習を繰り返す。僕らは自然と拍手を送っていました」。

トップ俳優の魅力は強さだけではなかった。「突っ張りの稽古をしていた僕に『本物は迫力が違うね!』とわざわざあいさつに来てくださったのは真田さんです。僕ら端役に対して『今日のケータリングは何かな?コーヒー飲む?』と気を使ってくださった。撮影中は『せっかく映画に出るんだからきれいに映ろうね!』と僕の衣装のしわを伸ばしてくれて、こちらの緊張をほどいてくれました。うわさでは聞いていましたが、うわさ以上に信じられないくらい優しい方でした」と日本生まれのハリウッドスターをリスペクトする。

完成作を観て溢れた涙

トップ俳優たちのジェントルな姿勢は撮影現場全体を引っ張り、ワンチームとしてのまとまりを生んだ。「僕は中国映画やインド映画への出演経験もありますが、こんなにフレンドリーな撮影は初めて。それはキアヌさんや真田さんらトップの方々が温厚でいい人だからです。アクションシーンの本番ではみんな本気で相手をボッコボコにするけれど、カットがかかると『ごめんね!大丈夫!?』と相手を思いやる。一致団結した連帯感はまるで部活のようでした」。

だからこそクランクアップ後に作品を観た際は頬を熱いものが伝った。「練習期間を共にしたのは40人くらい。外国の方も多かったのでコミュニケーションをとることが出来なかった人も多いです。でも顔は知っているし、どのような練習をしていたのかも見ている。そんな彼らが映画の中で頑張っている姿を目にすると、懐かしさとうれしさが込み上げてきて泣けてくる。共演者というか、もはや仲間という意識です」。

すべてはSNSに届いた怪しすぎる一通のDMから始まった。「あのDMがこんな世界を僕に見せてくれるなんて…」。大相撲引退から16年、「つくづく不思議なものですね」と語る田代の人生。次はどんなサプライズが待っているのか。

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