元トラックドライバーという経歴をもち、現在はトラック漫画を中心に創作活動をされている漫画化のぞうむしプロさん(@zoumushi6)。この度、ドライバーとしての心構えを描いた『ダクオン』というタイトルの漫画を公開、多くの反響が寄せられました。
舞台は某物流センター。スタッフのオカムラさんが、「オラァ!」と声をあげながら、重たい荷物をドンと音を立てて置きました。元気で若者らしさも感じられますが、そんなオカムラさんを、ベテランスタッフのヤナギダさんは注意します。
「おれたちドライバーの荷扱いにはな、『濁音』つかねぇんだわ」
「ドン」より「トン」、「ガチャン」より「カタン」
一体どういう意味なのでしょうか。
オカムラさんが尋ねると、ヤナギダさんはこのように答えました。
「荷物置くときにさ…『ドン』より『トン』、『ガチャン』より『カタン』ってした方が荷物は傷まないだろ」
確かに、勢いよく音を立てて荷物を置くと、その衝撃で箱がつぶれてしまったり、中のものが傷ついてしまったり、壊れてしまったりする可能性もあります。できるなら音を出さないのが一番ではありますが、最低限あまり音を出さないよう努めるだけでも、荷物が破損するリスクは格段に減るでしょう。
お客様には、綺麗な状態の荷物を渡したい――。
ヤナギダさんの言葉は、プロとしてお客様を気遣う心から出たものだったのですね。
荷物を運ぶトラックドライバーの心がけを描いた漫画。リプ欄にもたくさんのコメントが寄せられました。
「わかる……潰れてるとちょっと落ち込む」
「お手元に届いたときのお客様の顔、どういう荷物なのか、そういう想像力があるから、こういう対応ができるのですね。素晴らしい」
「これは一般人にも身近なお話だけに、全てのドライバーさんに守ってほしいですね」
「物流のお仕事はもっと尊重されるべきだと思う」
称賛の言葉がたくさん並びました。また、「トライハーさん達、暑い中、いつもありがとうございます!」と、あえて自身も濁音を抜きながら、感謝の言葉を述べる方もいました。
しかし、一方では次のような厳しい指摘も。
「某物流系のバイトしに行ったら荷物放り投げてました笑」
「前いた職場の運送会社の人『ドンガラガッシャァァン!!』って音出しながら家の荷物積まれてたなぁ…」
「某運送会社の仕分けの所でバイトしてますけど皆平気で蹴ったり投げたりしますからね...そうでもしないと多すぎて間に合わないのは分かるんですけども」
「お歳暮シーズンに集荷場のバイトしたことあるけど、冗談抜きで酒臭いの。瓶とかガンガン割ってるもん」
漫画通りの丁寧な仕事をしているところばかりではないという声。一部とはいえ、そのような現場も存在しているというのは、悲しいことです。
ぞうむしプロさんに聞きました。
――今回の漫画を描こうと思った理由について教えてください。
ぞうむしプロさん:一般的に知られていないトラック、物流業界のあるあるを描くのが自分のコンセプトなので、今回は荷扱いについてのテーマを描こうと思いました。自分もトラックドライバー駆け出しの頃、荷物を運ぶ時や置く時、先輩ドライバーに「引きずらない、大きな音を出さないように」と教えてもらいました。
――“濁音”というキーワードも、当時実際に言われていた言葉だったりするのでしょうか?
ぞうむしプロさん:“濁音”についてはオリジナルで、実際に使われている言葉ではないです。大きな音を出さないようにする、ということの漫画的な表現として描きました。実際ガチャガチャ荷扱いしていると場合によっては注意されると思いますし、自分がいた現場では漫画のように優しくはなく、もう少し厳しく指導されました。ちなみに、“ダクオン”のフレイズは、漫画的な引きを考えると良かったと思うのですが、読者から「『“濁音”がつく』ではなく、正しくは『“濁点”がつく』なのでは?」というご指摘もあって、「確かに!」と思いました。
――日本語としてはそちらの方が相応しいといえますね。ですが、“ダクオン”の方がキャッチーさがあって馴染みやすいように私にも思えます。また、リプ欄には「荷物の扱いがひどいところもある」という書き込みもありましたね。
ぞうむしプロさん:荷物破損はドライバーだけのせいではなく、集荷や倉庫内でも発生します。特定の業者ではなく、荒く扱っているのは一部だという認識です。あと、「(荷物を丁寧に扱うことについて)賃金以上の過剰サービスだ」という内容のコメントもいただきましたが、出来る範囲で丁寧な仕事をするのは大切なことだと自分は思っています。
――逆に客側の立場で、ひどい状態で荷物が送られてきた経験はありましたか?
ぞうむしプロさん:自分の経験ではありませんが、弊社(ぞうむしプロさんが代表を務める「ぞうむしプロ合同会社」)のスタッフのエピソードで、ギター雑誌のプレゼント企画で大ファンのギタリストのサイン色紙が当選し、到着を楽しみにしていたら丸まってポストに入っていたという話は、とても印象に残っています。
――それはショックですね…。ちなみに、漫画内でもヤナギダさんが潰れた箱を前に、「限定フィギュアが…」と残念がる場面もありますが、ご自身も実際にフィギュアなどがお好きだったりするのですか?
ぞうむしプロさん:はい、大好きです。事務所の机に昆虫、アメコミ、フォークリフトなどのフィギュアを飾っています。
◇ ◇
25年に渡りトラックドライバーを務めてきたというぞうむしプロさん。ネットサイトの編集者の方の勧めがきっかけで、自身の経験を活かした物流系の漫画を描きはじめました。
現在は、運送会社の敷地内に間借りをする形で、漫画制作会社「ぞうむしプロ合同会社」を運営。代表であるぞうむしプロさんが描いた漫画を、スタッフである白石百太郎さん、WAKASHI MIYAGIさんが仕上げるスタイルで、制作を行っているといいます。
そんなぞうむしプロさんですが、現在さまざまなメディアを通じ、精力的に活動を展開。
東京FM・アミューズ共同製作音声コンテンツ『トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル』のほか、さまざまなPR漫画や企業案件漫画を制作。また、ライターとして、『刃牙シリーズ』で有名な板垣恵介先生など、漫画家訪問インタビューの記事も担当されています。
さらに、2023年4月には、クラウドファンディングを通じて、初の単行本『トラックドライバーの怪談 FIRST GEAR』を発刊。全国書店、Amazonにて発売中とのことです。
■ぞうむしプロさんの(Twitter改め)「X」はこちら
→https://twitter.com/zoumushi6
■『トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル』の(Twitter改め)「X」はこちら
→https://twitter.com/truecrimejp/status/1527529977326993408
■漫画家訪問インタビューの記事(板垣恵介先生回)はこちら
→https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/zoumushi09
■単行本『トラックドライバーの怪談 FIRST GEAR』はこちら(Amazon)
→https://amzn.to/3OB2eW6