日本に進出するホテルといえば欧米発が中心だったが、アジア圏からの日本人気、2025年の大阪・関西万博を前に、新たな波が訪れようとしている。7月1日に、タイの五大財閥のひとつによる「センタラグランドホテル大阪」(大阪市浪速区)が日本初進出。ただ、日本人にとっては耳慣れないブランドだが、宿泊予約状況は順調とのこと。はたしてどんなホテルなのだろうか?
増えるアジア発のホテル、センタラとは?
タイの5大財閥「セントラルグループ」「CPグループ」「キングパワーグループ」「Red Bullグループ」「TCCグループ」のうちの、セントラルグループによる、ホテル運営に特化した「センタラ ホテルズ&リゾーツ」は1983年創業。2009年に海外進出してから、現在世界で開発中の施設を含めて93施設、うち30は2023年の間にオープン予定。さらに、詳細は未発表だが、日本でもすでに4つが進行中なのだとか。国内ホテルの海外進出の規模を考えると、勢いの差を感じずにはいられない。
実際、アジア圏からの日本初進出のホテルが増えており、関西だけでも、2022年にはシンガポールに拠点を構える「バンヤンツリー・グループ」が京都に2施設、6月27日には新ブランド「Folio(フォリオ)」1号店を大阪にオープン。6月1日には、タイの「デュシット・インターナショナル」によるライフスタイルホテルの日本1号店、2025年にはシンガポールの「カペラホテル グループ」が京都で開業を予定しているのだ。
そして、今回の「センタラ ホテルズ&リゾーツ」は、タイを中心に、モルディブ、スリランカ、ベトナム、オマーン、カタール、アラブ首長国連邦(ドバイ)と、注目の観光エリアに展開。約800万人ものホテル会員がおり、今回は5ブランドあるうちの2番目に高級な大型の5つ星最高級ホテル「セントラグランド」。ちなみにさらにその上は少人数を対象とした「センタラ リザーブ」だ。
今回、同施設がオープンする大阪・なんばは、キタ(梅田周辺)に比べると大型のラグジュアリーホテルが手薄。関西国際空港からは南海電車で直通、フォトスポットとして有名な道頓堀に近く、お土産を買うのにぴったりなドラッグストア・家電量販店も豊富に点在するなどお買い物も充実し、インバウンドに人気のエリア。
それにも関わらず、これまで500室以上ある高級ホテルは「スイスホテル南海大阪」(全546室)のみだった。そんな場所だからこそ、515室あるラグジュアリーホテルとして「勝機がある」と、総支配人の中川繁樹さんは語る。
予約状況は? すでに人気の兆し
認知度が低いとされているが、すでに7・8月の予約数は50%にも達し、うち約6割が海外(タイからの予約は、その5〜8%)。また約4割の日本人のうちの大阪からの予約は約6割とあって、地元の人からの好奇心・期待の高さがうかがえる。ちなみに、料金はクラブフロア5万3820円〜、プレミアム3万4550円〜、スタンダード2万8960円〜。
ただ、中川総支配人にとって、現在の予約状況の比率は少し意外だったそうで、「なんばエリア周辺は海外が8:国内2と言われており、想定していたのは7:3でしたが、予想以上に国内のお客さまからご期待いただいているようです」。
実際、開業初日(7月1日)にホテルの様子を見に行ったところ、ロビーにはアジアからと思われるお客が多く、エレベーターでもお客の会話から「サワディーカー(タイ語でこんにちは)」というのが、聞こえてきた。
そのように宿泊は海外からがメインと想定しているが、館内の8つの飲食店については、8〜9割の客を日本人と想定。そのためラインアップも、これまでのホテルとは異なるユニークなものだ。
これまでなかった!? ホテルらしくないレストラン
「海外からおこしになったお客さまは、やはり”食い倒れの街”を楽しまれると思いますので、ホテル外で食事される可能性が高いかと。ですので、あえて海外からの観光客に人気で、日本のホテルで海外のお客に人気の”鉄板焼、寿司、天ぷら”はございません。本国がマーケットをリサーチした上で、これまでこのエリアになかったグルメを展開いたします」と中川さん。
タイ発だから、タイ料理はあるだろう…という期待はもちろん裏切らず、タイ料理レストラン「スアンブア」(7月のランチビュッフェ2時間制・平日5593円、休日6587円。タイ ストリート ランチ994円などアラカルトあり)と、その一角に魚介を専門としたアジア料理店「エンバシー・オブ・クラブ」が、合計252席と一番客席数が多いレストランとなる。
センタラらしい”目玉”が、本国タイのグループホテルでも人気のルーフトップバー。33階から大阪の夜景を見ながら食事ができるビストロ料理「クルードデッキ」(夜のみ6960円から、プレートと指定ドリンクの飲み放題)、DJによる音楽を楽しめるというシチュエーションも考えると若い世代に人気が出そうな場所だ(雨天時は利用不可)。
そして、一番高級なのが、日本でまだ珍しい燻製専門のレストラン「燻製キッチン」(夜のみ、コース1万6034円〜)。ほかには、周辺にアメリカンステーキハウスが少ないという理由から熟成肉のステーキ店「ウイスキーノヴァ」(夜のみ、コース7830円〜・アラカルトあり)、昼はアフタヌーンティー(6587円)、夜はバーになる「スモーク&スピン」。最もカジュアルなのがワーキングスペースとしての活用も見込むカフェ「プラットフォーム2」(コーヒー621円)となっている。
また、近未来的な空間で異色を放っているのが、まるで隠し部屋のようなセルフサービスのバー「オートマタ」(20歳未満入店不可)。こちらではアルコールが準備されており、それに合わせるトッピングが用意され、すべて自分でビールを注いだり、カクテルを作って楽しむスタイルに(飲み放題4599円、もしくは1ドリンクのチケット制)。ビールの泡に好きな写真やデザインをプリントできるお楽しみもあり、確実に”映え”な場所となるだろう。
タイと日本の魅力を融合したホテル
2階のエントランスから入ると、3輪自動車・トゥクトゥクが目立つ先述の「スアンブア」があるが、その近くには日本の茶室をイメージしたようなスペースも…テーマも、客室は「能+茶道」、レストランは「日本画」など、和な印象が各所で目立っているような気がするが…。
中川総支配人は、「タイと日本の魅力を融合したホテルとなります。ここでは、フレンドリーなタイ人らしさあふれるおもてなしを味わってほしい。従業員の1割である約30人は本社から異動してきたタイのスタッフ。タイらしいサービスを追求していきます」と語る。また、タイ式のトリートメント「スパ・センバリー」があるほか、走行用に2台のトゥクトゥクもある。
最寄り駅の南海なんば駅から徒歩約4分かかるため、宿泊客の無料での送迎もおこなってくれる。「好評であれば、近隣の観光地に送迎するなど、数年後にトゥクトゥクを増やすことも検討しようかと(笑)」と。そうなれば、トゥクトゥクもミナミの新しい風物詩となるかもしれない。
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同施設が位置するのは、南海電気鉄道が開発した「なんばパークスサウス」。商業施設「なんばパークス」の南側で、2階通路で連結。先行して3月25日に「ホテル京阪 なんば グランデ」が開業し、インバウンド需要を見込み、日本らしく祭りなどのイメージを盛り込んだ全国で5店舗目となる「くら寿司 グローバル旗艦店」、銭湯をイメージした内装が特徴の「河童ラーメン本舗」が同日(7月1日)にオープンしている。