大阪や神戸からほど近く、丹波栗や黒豆などの名産に恵まれて、シーズンになると大賑わいの丹波篠山。そんな篠山ののどかな田園地帯に、現役の噺家さんが切り盛りするカレー屋さんがあります。「ルーとこめ」という、古民家を改装したお洒落なお店です。
のどかな田園風景の中に
三代目桂歌之助さん。1997年に先代の桂歌之助師匠に入門した、芸歴25年を超えるベテランの噺家さんです。入門時の芸名は桂歌々志(かかし)さん。筆者はこの頃の歌々志さんの高座を観て、その後の打ち上げの席で歌之助師匠から当時主宰されていた川柳の回にお誘いいただきました。そんな経緯で三代目桂歌之助さんは個人的にとても身近な噺家さんという思いがあります。
なので、篠山でカレー屋さんを開かれたということを聞いて以来、一度訪ねなければとずっと思っていました。
5月の晴れた週末、スクーターに乗ってお邪魔してきました。
国道372号を西に進み、県道77号に入ってまもなく右折。周りを田んぼに囲まれたのどかすぎる場所です。その中の古民家に、ごく控えめな看板が出ています。「√※ ルーとこめ」と書いてあります。噺家さんなんで、この辺り洒落てますね。
筆者は12時ちょっと前に着いたのですが、すでに満席で名前を書いてしばらく待つことになりました。その待合スペースがまた、とても落ち着いた和室で良い感じです。隅に置かれた趣味の良いミニコンポからは、ピアソラのタンゴ・ゼロアワーが静かに流れています。待っている時間が全然苦にならないというか、自分自身がお店の時間にスイッチしたような感じです。
お洒落な店内でいただく凝りに凝ったおいしいカレー
名前が呼ばれてお店に入ります。呼びに来られるのも、調理も、ホールも全てワンオペです。文字通りの古い民家ですが、ものすごく綺麗にリフォームされていて、とても明るい雰囲気です。さりげなく置かれているスピーカーは、知る人ぞ知るGENELEC(ジェネレック)。通好みのブランドですが、歌之助さん曰く「弟がくれた」。ご本人はあまりこだわりはないそうですが、弟さんはきっと趣味人ですね。
高座で見る桂歌之助さんは、とにかく真摯に古典落語を演じられる噺家さん、という印象を持っていますが、いまこうしてカレー屋さんをされてる姿も、とにかく真面目に一生懸命されてるな、ということが伝わってきます。めちゃくちゃ忙しいはずなんですが、常ににこやかです。これはもう人柄ですね。
カレーがまた、とても手が込んでいます。さらっとしたカレーとサフランライスを中心に、付け合わせがぐるっと取り巻くように並んでいます。添えられている赤い小さな実はジューン・ベリーというもので、お庭で採れたんだそうです。ほんのり甘くて酸っぱくて、カレーによく合います。
田舎暮らしに憧れて、丹波篠山に惚れ込んで
それにしても、なぜ中堅の噺家さんがカレー屋さんをしているのでしょう。それも篠山で。何か縁のある土地なのでしょうか。
「田舎暮らしに憧れてたんですよ。それで、落語会で何度か篠山を訪れて、良いところやなあとほれ込んで。それで、田舎暮らしの予行演習というか、ここでなにかできないかなあと思って、そうやカレー屋してみよう、って」
メニューは2つだけですが、とにかく凝ったカレーですから、下ごしらえも大変なんだそうです。毎月どこかの週末、2日間だけの営業なのですが、1週間ほど前から篠山入りして準備をしているのだといいます。
「本業があるので、月に2日が限界なんですよ」
それはそうでしょうね。精力的に高座をこなされてる噺家さんなんですから、月の1/4をカレー屋さんとして過ごされてるのはもうほんと、すごいと思います。
大阪や神戸から1時間ちょっとで行ける、自然豊かな篠山のカレー屋さん。営業日はFacebookやInstagramで発信されていますから、ぜひ一度お出かけください。