ゴミステーションで鳴いていた猫は喉に深い傷 人懐こい性格がみんなを元気にしてくれた 今は悪性腫瘍と闘う日々

渡辺 陽 渡辺 陽

ゴミステーションでゴミ漁りをしていた猫

マルオくん(6歳・オス)は、2016年8月、ゴミステーションでゴミを漁っていた。広島県に住むMさんの夫が出勤前にゴミ出しをする時に見かけ、「首にひどい怪我をしているみたいだから様子を見てやって」と連絡してきたという。

Mさんが見にいくと、ゴミステーションのあるビルの前に疲れ切った様子でぼんやりと佇む猫がいた。確かにひどい怪我をしていた。

「こんな暑い時に、傷だらけで汚れて食べるものもないなんて…かわいそうで、すぐに保護することにしました。その頃、猫と暮らすようになって、自然と外の猫にも関心を持ち始めていました。とても偶然とは思えません」

人懐っこい猫

保護とはいっても、ただの猫好きの夫婦。 手探り状態だった。

「かかりつけの獣医さんに相談しつつ、 怖がらせないようにアイコンタクトしながら、ごはんを近くに持っていき、家のガレージに誘導しました。マルオは毎日、ビルの前で私が帰ってくるのを待つようになり、あっという間に懐いてくれました。」

ごはんの後には濡れタオルで身体を拭き、動物病院にも予約を入れて、実家で飼ってもらう手はずも整えた。Mさんは、「あとは、どうやってキャリーに誘導しようか」と考えていた。ある朝、ごはんを食べさせようとガレージ行くと、マルオくんはいつも通り待っていた。ごはんを食べているマルオくんの側にそっとキャリーを置いて、お皿に入れたチュールを見せると、ちょっと警戒しつつも頭を中に入れた。

「ぽんっとお尻を押したらあっけなく中に入ってくれて、夫婦で腰砕け状態(笑)。そのまま、予定通り病院に連れていき、診察を受けました」

動物病院でみんなを虜に

動物病院の受付で「マルオ」と名前を書くと、看護師さんが「なんて可愛い名前!」と言った。キャリーをのぞくと、ニャーと可愛く鳴いた。待っている間もとてもおとなしくて、診察台でもくりくりの目でじっと獣医師を見つめていた。

「何もかもじっと耐えるとても強い子です。血液検査の結果、やはり猫エイズ陽性でした。喉のけがも縫う手前のとても深い傷で、どれだけ厳しい外生活をしてきたのかと思うと、涙が出ました」

マルオくんは、先生やスタッフさんになでられると、ぐるぐると喉を鳴らして枯れた声で小さく鳴き、すぐに皆を虜にしてしまった。Mさんは、虫駆除とけがの治療、去勢手術を病院にお願いして、1泊預かってもらった。無事に全てを終えてほっと一息。

「夕方マルオを迎えに行くと、先生もスタッフの方々もみんなが声を揃えて、『こんな性格の良い愛らしい猫を見たことがない!この子は奇跡だ!可愛すぎる!と大絶賛してくれました」

四六時中動物たちに関わっているプロを虜にするマルオくん。 術後1週間、ケージなしで暮らしたが、Mさんは「皆さんの言葉の意味がよく分かりました」と言う。

「けがが治るまでエリザベスカラーを付けていたので不自由だったと思うのですが、まるでずっと前から住んでいたかのようにくつろいで、私にスリスリしてくれました。抱っこすると、グルグルと喉を鳴らしながら、私の顔を舐めて頬ずりしてくれるのです。まるで、『ありがとう』と言っているかのように 」

年老いた父親が元気に

マルオくんは、寝る時もMさんの頬に寄り添って、一緒の枕を使った。Mさんがトイレに行くと、リビング から顔だけをのぞかせて鳴いて呼んだ。数日前まで外暮らしをしていた猫とはとても思えず、夫妻はあっという間にマルオくんに心を奪われた。

後ろ髪を引かれたが、Mさんは実家の両親の元にマルオくんを連れて行った。マルオくんは実家にもすぐに慣れた。とにかく人が好きでインタフォンが鳴ると一番にお出迎えしたという。

Mさんのお父さんは85歳で認知症気味だったが、マルオくんと暮らすようになってからとても気丈になり、驚くほど元気になった。

「人が変わったようにしっかりして、マルオの存在の大きさを毎日実感しました」

悪性腫瘍と闘病

マルオくんは2022年に入って顔面に悪性腫瘍ができた。手術はできなかった。Mさんは抗がん剤治療のため投薬を始めたが、マルオくんは寝たきりになり、生きているとは言えないくらい辛そうだった。

「いつもの弾けるような元気がなくなりました。でも、薬の効果はあったので完治できるかもと思いましたが、やはり転移してしまいました」

思い切って抗がん剤をやめたら病状は悪化したが、マルオくんは食欲が戻り、愛嬌を振り撒いた。Mさんは驚いた。

がんの末期。歯茎が溶け始めたが、それでもマルオくんは家の中を歩き回り、少量のごはんを時間をかけて食べた。

かかりつけの獣医師は、「抗がん剤をやめた時、もう1カ月持たないと思ったけど、もう3カ月経った。この状態でも喉をグルグル鳴らして素直に診察を受ける。人を疑うことのない、この真っ直ぐな性格の良さが命を保たせているんだよ。やはりこの子はすごい」と褒めてくれた。

今はマルオくんが好んで飲む、痛み止めの水薬だけで日々頑張って生きている。

Mさんは「マルオの猫生を、歯を食いしばって見届けます」と言う。

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